文章表現トレーニングジム 佳作「だいじょうぶですかあ」瀧慧
第14回 文章表現トレーニングジム 佳作「だいじょうぶですかあ」瀧慧
ある保険会社ビルの5階でエレベーターを降りた時のこと。女性二人がつき添い車イスの男性が乗り込むところでした。降りた私はエレベーターの扉をつかみ、車イスの乗り込みの手助けをした。つもりでした。
「ありがとうございます」車イスグループは、私にていねいに礼を言いました。
「どういたしまして」私はうれしくて頭を深く下げ、エレベーターの扉から手を離しました。
その時、先に乗った女性が閉マークのボタンを押したのです。扉はあわただしく閉まり、下げた私の頭をはさみました。
耳の上、側頭部につぶれた?と思われる痛みが走りました。
エレベーターは「だいじょうぶですかあ」「だいじょうぶですかあ」「だいじょうぶですかあ」という三人の声を残して、上へ上へと上がってゆきました。
「だいじょうぶじゃない!」私はどなりたかった。けれど五階のフロア―にはだれもいない。どうすることもできず私は立っていました。そのエレベーターは八階表示で止まっていました。
「言いつけてやる!」私はガンガン痛みの増す頭をかかえて、一階の受付へ行きました。
「八階へ行った車イスの男性はどなたですか」
私の問いに、受付の女性はにこやかに「当社の会長です」と答えました。