文章表現トレーニングジム 佳作「塞翁が馬」 倉井一豊
第11回 文章表現トレーニングジム 佳作「塞翁が馬」 倉井一豊
その朝、幾名かの同僚と共に会議室に呼ばれた私は、部署廃止を理由に突然リストラされた。隣の同僚は泣き崩れていたが、四十歳の私は理不尽だとは思いつつも、人生にある〈上り坂、下り坂〉に加え、もう一つの〈まさか〉という坂だと自分に言い聞かせ、全てを飲み込み、翌日から就職活動に奔走した。
けれど何の特技も資格もない男にデスクワークの仕事が見つかるはずもなく、半年後、正社員を諦め、学生時代のコンビニ経験を思い出し、スーパーの夜勤アルバイトをすることにした。
当初は様々覚えるのに苦労したが、慣れてくる内に次第に面白くなってきた。その理由は、パソコンとのにらめっこから体を動かし続ける仕事に変わったことにより、勤務後、スポーツをやり終えた時の様な爽快さを感じるようになったからである。そしてもう一つ。私は幼い頃から、「いつも笑っている」とよく言われた。それが褒め言葉の場合もあるし、「いつも笑っていてバカみたい」という非難の場合もあったろう。いずれにしても、その〈笑顔〉がスーパーの仕事では大いに長所になり得た。レジ担当時にお客様から「あなたの笑顔いいわね」と多々言われるようになったのである・・・。
あの日、唐突にリストラされ、正社員の仕事が見つからない日々は絶望で覆われていたが、現在はアルバイトに切り替えたことにより自分に合った仕事が見い出せ、毎日、人生の面白さ、不思議さを感じつつ、希望の中で生かされている。