文章表現トレーニングジム 佳作「子供らしい」 松本俊彦
第11回 文章表現トレーニングジム 佳作「子供らしい」 松本俊彦
小学生の頃、私はよく母から、子供らしくないと言われた。もちろん悪い意味でである。子供らしくない。もっと子供らしくしなさい。しかし、私には、子供らしいということがどういうことなのかがわからなかった。
小学二年ぐらいだったか、母と二歳上の兄と私、それに伯母夫婦の五人で、車で出かけたことがあった。帰りがけに、伯母が駄菓子屋でアイスを四つ買ってきた。伯父はアイスなど食べないと思ったらしい。しかし、伯父は食べると言った。伯母がもう一つ買いに行こうとすると、母が言った。
「私と俊彦は半分ずつするからいいよ」
母は伯母に気を使ったのだろう。そして、半分ずつするとしたら、母と私が最も適当だと思ったのだろう。しかし、私は言った。
「いらん」
私と兄が半分ずつするのなら、まだ許せたかもしれない。しかし、なんで兄は一個まるごと食べられて私は半分なのか、納得できなかった。そこで、また母の一言が出た。
「なんでそんなこと言うの。子供らしくないなあ」
その時の私は、どう言えばよかったのだろう。どう言えば子供らしかったのだろう。「うん、僕は半分でいいよ」とでも言えばよかったのだろうか。
「いらん」
私には、あの状況でこれほど子供らしい反応はなかったと、今でも、今だから思う。