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文章表現トレーニングジム 佳作「あの頃の私は」 並松昌子

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作文・エッセイ
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文章表現ジム
第11回 文章表現トレーニングジム 佳作「あの頃の私は」 並松昌子

オーストラリアの美しい都市、パースの小さな教会で、長女の結婚式が行われた。

礼拝堂に堅い木の椅子が並び、高い窓のステンドグラスからひっそりと明かりが入ってくる。古ぼけた教会に娘の純白のウエディングドレスは眩く、そこだけが輝いて見えた。

お相手はのんびり育った次男坊。だがシュタイナー学校の先生になるという強い意志を持ち、ニ五才でオーストラリアへ留学、ひたむきに学んだ。彼と外国での生活を決めた娘の花嫁姿に、きっと感極まることだろう。見ればバージンロードを歩く夫の目は真っ赤だ。

だけど私には涙が出ない。当時中古車バス販売業を私自身が営んでいて、十日間のパース滞在中支払いの小切手が心配でならなかった。だから…。そんな言い訳してみたが、本当は私の内面にある気がする。娘の晴れ姿より自分の仕事が気になる、私は薄情なのか自分本位なのか、ぐるぐるそんな思いに取りつかれた。この日は娘の幸せな姿だけを見ていたかったのに。その後十年が過ぎ資金繰りの悪化で仕事を断念した。するとその代償のように、思うさま手放しで泣く日が来た。

娘夫婦が五才の孫娘を連れて帰国、二週間滞在する。空港での別れを前に、堰を切ったように涙が出た。娘は優しく私の背を撫でる。

仕事を止めて薄紙を剥ぐ様に気持ちが柔らかくなった。あの頃の私が薄情だったとしても、今は熱い涙が出る。とても心地よい。