佳作「正直者 わらわら」
第6回 文章表現トレーニングジム 佳作「正直者 わらわら」
そこは、小学3年生の私でも一見してわかるほど、古びた建物、看板はなく、出入り口の引き戸は開いたままで、薄暗い室内、おばあさんが店番をしている駄菓子屋。
私は、友人と店内に入った。目当ての物は流行っている1枚10円のカード。カードのシールをはがすと、糊のようなものがついており、親指と人差し指の間に忍ばせ、こすると煙が出るという仕掛けだ。
友人と別れ、家に戻った私は気がついた。2枚目の後ろには3枚目のカードが。「どうしよう、お金払っていない」「そんなに気になるのならば、お店に行ったら」と母の態度。時刻は18時前。いつのまにか外は雨。
傘を差し、一人でお店へ向かった。
「あのう、2枚と思っていたカードが3枚あって……お金、払いに来ました」
しどろもどろに説明する私。
「あんたは、正直者だ。お金はいらない」
けれども、私はお金を渡した。
「じゃあ、これは、正直者のあんたにプレゼントだ」
おばあさんから渡されたのは、1本10円で売っている串刺しにされている丸いカステラ。
「ありがとうございます」
私は、薄暗い中、軽やかに歩いて帰った。家に帰って母と弟、妹と分けて初めて食べたカステラ。少し湿っぽかった。けれども、その味は忘れない。