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第52回「小説でもどうぞ」選外佳作 新規ミッションのご依頼です 穂積歩夜

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小説
小説でもどうぞ
第52回結果発表
課 題

ゲーム

※応募数361編
選外佳作 

新規ミッションのご依頼です 
穂積歩夜

『新規ミッションのご依頼です』
 通知音が鳴って、ベッドの上のスマートフォンに仕事の依頼が入った。
 ちくしょう、今日はまだ寝てられると思ったのに――でもまあ、これで食ってるんだから、仕方ない。
 ベッドから起き上がり、寝惚け眼をこすりながら、俺はミッションの内容にざっと目を通した。難しくはなさそうだ。俺は欠伸あくびをしながら、パソコンの前に座る。
 こんなふうに急な依頼も多いが、中学の頃から自宅警備員の俺にとって、リモートで完結するこの仕事は天職だった。
 しかもこの仕事、内容はゲームをプレイするだけだというのだから、なおさら最高だ。
 オタクだと馬鹿にされ、不登校になってしまった中学生時代には、まさかそれから十年後、ゲームを仕事にしているとは思ってもみなかった。叶うことならば、あのときに戻って、落ち込んでいた自分を励ましてやりたいものである。
 まだ眠かったが、ヘッドセットをしたら、自分の中でスイッチが入った。俺は意気揚々と、画面の中のゲームの世界へと飛び込んでいく。
 今日のミッションは、至ってシンプルだ。相手の陣地に攻め入って、プレイヤーを一人でも多く倒し、守りが薄くなったところで、ターゲットである要塞を破壊すること。
「やあ、カズ、調子はどうだい?」
 ログインを済ませると、ヘッドフォンの向こうから、チームメイトの気怠そうな声が聞こえてくる。
「いつも通り。フレデリックは?」
「さっきまで、友達とバーで飲んでたんだ。まだ酔いが覚めないよ」
 時差があるから、向こうは夜なのだ。
「たるんでるんじゃないわよ!」
 たった今ログインしてきたチームメイトの甲高い声が、フレデリックを叱責した。
「急な呼び出しだっていうのに、オリヴィアったら、今日も元気だね」
「もちろんよ! 一発かましてやりたくて、うずうずしてたんだから!」
 俺のチームメイトは世界中に散らばっている。でも、システムが瞬時に音声を自動翻訳してくれるから、コミュニケーションには何の支障もなかった。
 家にいながらにして、世界の人と繋がって、同じ時間を共有し、同じ目標のために熱くなることができる――本当にこれって、夢みたいな仕事だな、と何度だって思う。
 さて、チームメイトが揃ったら、ミッションのスタートだ。
 俺たちは声を掛け合いながら、ゲームをプレイしていった。次々と画面に現れる相手プレイヤーたちを、連携プレイで上手に撃ち倒していく。
 一人、また一人と相手が倒れていくと、興奮して体が熱くなってきた。
 酔っ払いのフレデリックも、調子が出てきたらしく、どんどん動きが良くなっている。
 オリヴィアは抜け目がない。俺やフレデリックが見逃した敵をしっかり撃ち倒して、背中を守ってくれる。
 抜群のチームワークを発揮して、俺たちは難なく、ターゲットの要塞へと近づいていった。
 フレデリックとオリヴィアが、周囲を注意深く観察して、危険がないとサインを出してくれる。
 俺はそれに応えると、何の躊躇いもなく、キーボードを叩いた。
 とどめの爆撃が炸裂し、轟音が鳴り響く。画面の中で、要塞が呆気なく崩壊していく。
 ゲームセット。ミッションコンプリート。
「よっしゃああああああ!」
 俺の雄叫びが小さな部屋に響き渡り、チームメイトの歓喜の声が、ヘッドフォンの向こうで聞こえた。
 何度経験しても、この瞬間は最高に気持ち良い。このために生きているとさえ思う。
 満ち足りた気持ちでゲームを終え、ヘッドセットを外すと、スマートフォンの通知音が鳴った。何の知らせかは分かっている。

『速報:○○国××市の軍事要塞に爆撃。被害の全容は不明。死傷者数は百名を超える模様』

 百名か。今回は少ないな、と、俺は他人事のように思った。
 戦時下にある○○国。それが、リモートで繋がった先――俺たちの仕事場だ。
 俺たちのゲームでは、本当に人が死んでいる。遠隔でドローンを操作しながら、俺たちは遠い異国の地で、戦争というゲームをプレイしているのだった。
 最初の頃は、恐怖も罪悪感もあった。
 でも、これを正式な仕事として依頼してくる人がいるのは事実。
 こんな仕事でしか俺が食っていけないのも事実。
 どんなに理不尽に思えても、こういう役割の人が必要な社会だというのも事実。
 そして、このゲームの中で感じる高揚感と、仲間と協力し合える喜び、ミッションが終わった後の達成感は本物だ。
 そうと気づいたら、そのうち死傷者の数なんて、ただの数字――スコアでしかなくなった。
 どうせ、この死傷者たちやその家族を、俺がリアルに目にすることなんかない。
 遠く離れた○○国にだって、きっと行くことはない。
 ――そんなの、ゲームの中の架空の世界と何が違う?
 一仕事終えた俺は、ベッドに倒れ込む。次のミッションの依頼が届くまで、再び惰眠を貪るとしよう。
(了)