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佳作「神より 霙」

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作文・エッセイ
結果発表
TO-BE小説工房
第22回 阿刀田高のTO-BE小説工房 佳作「神より 霙」

『吾輩は神である。神より』

『誰? 斬新な迷惑メール送ってくるなよ』

『神である』

『誰だ? メアド変えたの』

『神である』

『友達に神はいない』

『友達ではない。でもきみのことは何でも知っている』

『じゃあ誕生日を言ってみろ、俺の』

『ちょうど二ヶ月後だ』

『誕生日を知ってる奴は山ほどいるからまだ誰か分かんないな。好きな色は黒と白と?』

『透明だ』

『俺が今いる場所は?』

『布団をもう少し掛けた方がいい』

『どこから見てるんだ?』

『ストーカーではない』

『神である?』

『そうである』

『神は何ができる?』

『何でもできる』

『じゃあ未来を教えてくれ』

『素晴らしい世界だ』

『そうじゃない。俺の未来だ』

『きみの未来はもう始まっている』

『そうか』

『そうだ』

『明日の夕飯は?』

『不味い。食べない方が正解だ』

『俺は結婚できるか?』

『五年後にする。しかも同時に父親になる』

『デキ婚? みっともねえな』

『盆と正月が一緒にくるようなものだろう。こんなにめでたいことはない』

『家族は喜んでくれるのか?』

『全員が涙を流して喜ぶ。相手方もだ』

『よかった。幸せなんだな』

『その通りだ』

『こんな時間だけど神は寝ないのか?』

『きみが眠くなったらやめよう』

『この先もメールしたら返ってくるのか?』

『きみが望むならいつでも』

『そうか』

『そうだ』

『まだ眠れないんだ』

『何の話をしようか』

『誰かが神に祈る時、それはいつでも聞こえているのか?』

『四六時中聞こえている。ただし聞こえるだけだ。全ての願いを叶えるわけじゃない』

『なぜ俺の願いは叶えてくれるんだ?』

『きみはランダムに選ばれただけだ。時々こうして誰かが選ばれている』

『じゃあ俺はラッキーなんだな』

『その通りだ』

『今の状況もラッキーなのかな。そうは思えなかったけど』

『アンラッキーが続いたからな』

『よく知ってるな』

『神だからな』

『神は今の俺をどう思う?』

『生まれた時と同じレベルの愛情を家族から一身に受けられるなんて幸せだと思う』

『そのことに今気付いた。やっぱり俺ってラッキーだな』

『その通りだ』

『なんか急に夢ができた』

『どんな夢?』

『結婚して子供を授かってみんなを幸せにしたい』

『それは夢じゃなくて現実だ。実際にそうなる』

『そうかな?』

『そうだ』

『ほんとかよ』

『神は本当のことしか言わない』

『これから言う願いを叶えてくれるか?』

『叶えよう』

『その言葉も本当だと信じる』

『安心していい』

『二ヶ月後に二十歳になる俺のために父親が高いスーツを買おうとしているのを知った。それを止めてほしい。難しいだろうから、こう言えばいい。俺がスーツを着て出歩けるようになってからにしよう、体型の変化もあるしサイズも難しいから、と。母親には毎日俺に会いに来るのを止めてほしい。せめて一日おきでいいと言ってほしい。ゆっくり休む時間を作ってほしい。日に日に痩せて、俺を心配させるなと言ってくれ。それから受験生の弟にも言いたいことがある。こんなくだらないことをしてないで勉強しろ。一通送るのにこれだけ時間がかかる兄の相手なんかもうしなくていい。母親から俺の様子を聞いて心配してくれているんだろう。何て不器用でバカで優しい弟なんだと思ってる。大丈夫だ。もう諦めない。お前のおかげだ。夢が叶うように治療頑張るから、合格したら顔を見せてくれ。ありがとう。じゃあな』