選外佳作「君への差し出しもの。 和姫」
雪の様に、はらはら舞い散る桜。
「綺麗だ。」
そう呟く僕に君は、いつものように僕の意見に棘を刺す。
「綺麗かしら……?」
そんな君も好きだ。
君は、誰よりも美しいと思う。その白い素肌に、黒い瞳、血のような唇。全てが美しい。それに加え僕は、何の取りえもないしどちらかというと醜い。僕と君では、真逆だ。
真逆だから、僕を選んだかもしれない。君の周囲の物が、当たり前の美しさで何も感じないから。
「桜は、散った後のが、綺麗なのよ。」
僕は、君の横顔に目をやり、桜の木に視線をただ、戻すだけ。
「それだと、葉の緑と残りの桜。ピンクが混ざって、綺麗だとは僕には思えないけど……」
今の桜は、淡いピンク色をしている。僕の発言に、君は不思議そうに首を傾げる。今に始まった事ではない。自分との意見が違うと、首をすぐ傾げ、子供のように何故そう思うのか?といった素情をする。
「帰りましょうか」
すぐさま、桜とも僕からも視線をそらし君は、一人で歩いていく。
君は、いつも素晴らしい素情を出さない。笑ったり泣いたりもしない。そんな君にとって、僕は何なんだろう。いつもそう思わされてしまう。一応、付き合っていて……そうだ。僕が、君に告白したんだから。でも、形だけで僕の独り善がりの気持ち? 君の気持ちが僕は知りたいんだ。聞く為にも、ここ(・・)を選んだのだから。
田舎町の駅ホームには、僕と君だけの二人で、他に人が来る様子もない。
だから、今知りたいんだ。
「ずっと、聞きたかった事があるんだ。」
ホームには、まだ電車も来ない。それを確認したのか、君は相変わらず表情一つ変えずに僕を見る。その黒く飲み込まれそうな瞳で。
「どうして……君は、僕を選んだんだ?」
あぁ……確かあの(……)時(……)もこんな静かな夕方だったな。でもどこからか、子供の声も聞こえていたような……。
「知りたい?」
君は、初めて僕の前で笑った。背静が凍るような表情で。
「貴方は×××だから」
君の声と共に、電車到着のアナウンスが重なる。
そうか。君が何で僕を選んだのか、やっと分かったよ。
電車が駅へと近づいてくる。
線路は、あの時(……)のように冷たく待ち受けているんだ。あの日(……)の様に。今度はきっと僕を。
僕が、幼かったあの春の日、花見帰り赤い口紅で、にたにた笑うあの母親を線路に、突き落とした時のように。何も変わらず。
そう。僕は、「人殺し」
だから、君は心の醜い僕を美しいと感じたのかもしれないね。だから、付き合ったんだ。
でも、君は本当に僕を愛という形で好きになってくれていたのだろうか?
「私は……貴方が好きだったわよ。心の醜さ関係なしに」
僕の心をのぞき込んだようにいう君。その言葉を僕は信じる。だって、君が笑うから。
僕は君に見せたいものがある。君が、ずっと欲しがっていた、君がもっと笑顔になる美しい物を。
僕は、君にそっとキスをして一歩下がる。
僕と居れば、いつか見られる。と思っていたんだろ?
だから、君には君が思う美しく綺麗なモノを見せてあげよう。
「電車が間もなく……」
駅でアナウンスが流れ電車の姿もみえてきた。
「サヨナラ」
ホームに、電車が入る姿を見て、僕は最後の言葉を君に伝え、僕を待ち受けている線路へダイブした。
聞こえるはずのブレーキ音は、聞こえない。
あの日、母親を僕が突き落とした時の景色はホームで、ただ静かに笑っている僕の顔がこうも綺麗に、見えていたんだろうね。
あぁ……また、君は笑う。今度は、子供がはしゃいで見せるような笑顔で。その笑顔の先には、僕の死があるからだよね?
でも、そんな君も愛らしくて好きだよ。
だって、幼い頃の僕が笑っているようにも見えるから。