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佳作「嘘から出た真 哀川秋生」

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作文・エッセイ
結果発表
TO-BE小説工房
第19回 阿刀田高のTO-BE小説工房 佳作「嘘から出た真 哀川秋生」

『キリストの墓』って書かれた標識があるんだ。知ってるかい。

本当だよ。キリストの墓が、日本のある村に存在するのさ。キリストは、十字架の上で死んでなかった。死んだのは別人で、キリスト本人は日本に逃げ延びた。そして天寿を全うした。そういう伝説のある村が、実在しているんだよ。

嘘だろうって? さあ。おれにとって、そんなことはどうでもいい。

俺にとって重要なのは、ただの田舎が、「キリストのゆかりの地」として有名になったってことだよ。

え? どうしてそれが重要なのかって?

なあ、おまえは、こう思ったことはないか。有名になりたいって。

テレビに映るような人気者になりたいって思ったことはないか。

おれはあるよ。理由は分からない。でも大勢の人間から注目されたい、凄いって言われたいって、子供の頃からずっと思ってきたのは確かなんだ。でも、おれには取り柄が無い。頭も良くないし、運動神経も悪いし、美人でもないし、演技力もお笑いのセンスも無い。人気者になる要素がない。何も無いんだ。

おれが生まれ育ったこの村もそうだ。おれと同じだ。何の見どころもない。こんな辺鄙なところじゃ、テレビ局どころか旅行客すら来やしない。なーんにも無いからな。仕方ない。

だからさ、「キリストの墓がある村」って記事をネットで見つけた時、思ったんだよ。何も無いなら、何かを作ればいいってな。何でもいいからでっち上げて有名になれば良いってな。

ほら、あそこを見てくれよ。青い標識があるだろう。そうだ。「宇宙人の墓」って書かれた標識だよ。わざわざ特注したんだ。誰が? おれがだよ。何で? そりゃあ、有名になるために決まってるだろ!

有名になるために、おれは頑張った。ミステリーサークルを自作したり、SNSに情報を挙げたり、テレビ局に企画を持ち込んだりな……でも、駄目だった。誰も見向きもしない。近所の連中にはバカにされるし、ネットではバカにされるし、テレビ局でも受付にバカにされるし……

やっぱり、おれなんかじゃ有名人になれないんだ。一生こんな寂れた村で燻ってるんだ。そう絶望した時だったよ。奴らが現れたのは。

夜に、いきなりチャイムが鳴ってな。おかしいって思ったんだよ。近所の人間はチャイムなんて鳴らさねぇからな。かといって、泥棒はチャイムなんて鳴らさねぇ。用心しながら玄関の扉を開けて……腰を抜かしたね。

扉の向こうに宇宙人がいたんだ。映画とかで見たことあるだろ。全身が灰色で、手足が細長くて、頭が異様にでかい宇宙人。あれってフィクションじゃなかったんだよ。本当にいたんだよ!

突然の宇宙人襲来に、おれは地面に座り込んで呆然としていた。そしたら、頭の中から声が聞こえてきた。あいつ、おれの頭の中に直接語りかけてきたんだ! テレパシーで!

「数千年前、我らの同胞がこの星に不時着した。長らく行方が分からなかったので、遺体を回収できなかった。しかし、あなたが目印をつけてくれたおかげで発見することができた。ありがとう」

そういって、奴は頭を下げたんだ、おれに! 頭を下げたんだぞ! 宇宙人が! 凄いだろ!

その宇宙人がその後どうしたかって?

いつの間にか空にUFOが浮かんでてな、あいつはその中に吸い込まれた。UFOが一瞬光ったかと思ったら、そこにはもう何もなかったんだ。

嘘だろうって? 本当さ! 次の日にミステリーサークルを見たら、真ん中にでかい穴ぼこができてたんだ。宇宙人が超能力で穴を掘って、宇宙人の死体を回収していったに違いねえ。

おれは後悔したよ。うちの庭にそんなお宝が眠ってたなんて。知ってたら、宇宙人の死体を掘り起こしてたのに。テレビ局に連絡して、取材されて有名になれたかもしれないのに。本当に、惜しいことをしたよ。

いや、そもそも、宇宙人が家に来た時、カメラを回しときゃ良かった。写真や動画だけでも十分証拠になったのに。バカだよなあ、おれ。

だから、次は絶対にしくじらないのさ。

ほら、あそこを見てくれよ。青い標識があるだろう。そうだ。「徳川の埋蔵金」って書かれた標識だよ。わざわざ特注したんだ。誰が? おれがだよ。何で? そりゃあ、有名になる為に決まってるだろ!