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第17回「小説でもどうぞ」佳作 無期懲役/昴機

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作文・エッセイ
小説でもどうぞ
結果発表
第17回結果発表
課 題

※応募数253編
「無期懲役」
昂機
 俺は空き巣。凄腕だ。
 空き巣に入った家は三桁にのぼり、盗んだ金目のものは数知れず。現金はもちろんのこと、宝石、絵画、高そうな壺、目につくものはだいたい奪った。
 自分の家を持たない俺にとって、空き巣は生きるための必要事項と言っても過言ではない。冬は少しの間だけでも寒さが凌げるし、夏は灼熱の太陽から逃れられる。長期旅行を取っている家族の家だと、数日間は好きに寝泊まりできるからラッキーだ。
 自分だけの家があればと何度も考えたが、何しろその日を暮らすだけで精一杯。俺は生きるために空き巣を働く。どんな状況に陥ろうと、やめてなるものか。俺をおとなしくさせられるものなら、やってみるがいい。
 今日は前々から目をつけていた、立派なお屋敷に足を運んでいた。もちろん、家主がしばらく家を空けることは確認済み。防犯カメラの位置や、警報装置の有無もわかっている。どれほど金をかけて防犯設備を整えようと、天才の前ではないも同然だ。
 俺は一階の窓を静かに割ると、屋敷の中に体を滑り込ませた。数々の経験で、家のどこに金目のものがあるのかだいたいわかる。
「こっちの方から金の匂いがするぞ」
 本能のまま進むと、扉に金の取手がついた、洒落た部屋があった。俺は導かれるようにそこに入った。
 部屋の中は様々なものが雑に積み上げられていた。宝物庫というよりは、ゴミ置き場のような出で立ちだ。
 おかしい。俺の鼻は正確なはず。俺は鼻孔をひくつかせ、部屋を物色した。きっと何かがあるはずだ。
 そのうち、大きな棚の上に、小さなオイルランプが乗っていることに気がついた。中から魔人が出てきそうな、あれだ。ゴミ捨て場の中、燦然と輝くダイヤモンドのようだった。
 金目の匂いはこいつからするらしい。俺はそっとランプに手を伸ばした。黄金に光るそれはつるりとした手触りで、よく指に馴染む。
 魔人の話を読んだ奴なら、一度はランプをこすってみたいと思っただろう。かくいう俺も、その一人。俺は輝く曲線を二、三度手のひらでこすってみた。
 すると、どうだ。ランプの細い口から、もくもくと黒い煙が立ち込めてくるではないか。
「誰だね、貴様は」
 煙が消える頃、目の前にはランプの魔人が現れていた。筋骨隆々、顔は厳しく、その目は神秘を湛えているように見える。
 ただし、床に寝そべっただらしない姿なのがいただけなかった。
「お、俺はお前を呼び出したものだ」
「なにを勝手に呼び出している。まったく、ランプの中が一番だと言うのに……。願いを三つ叶えてやるから、さっさと帰れ」
 俺は飛び上がった。まさか本当にあの話のようになるとは。俺は迷わなかった。
「では、一生困らないだけの金と、住み心地の良い大きな家と、その家を守る世界一安全な防犯設備をくれ」
「あい、わかった。すぐに用意してやろう。私は早く眠りたいのだ」
 まったく、怠惰なランプの魔人もいたものだ。威厳もなにもあったものではない。
 ただ腕は確からしい。魔人が指を鳴らすと、辺りは一瞬で真っ白な光に包まれた。
 次に目を開くと、そこは豪奢な屋敷の中だった。大きな部屋が無数にあり、庭もプールもついている。一生分遊んで暮らせるだけの財産も用意されている。注文通り、防犯設備もばっちりだ。不審人物を発見すると、たちまち警報が鳴って警備員が飛んでくる。扉はもちろんオートロック、他の設備も最新鋭だ。
 もう空き巣なんてせせこましいことは辞めだ。なにもしなくたって不自由なく生きてゆける。他人の家を借りる必要もない。周りには景色の良い自然がたくさんあるし、少し足を伸ばせば上質な酒場やレジャー施設にも事欠かなかった。まさに最高の立地。最高の家じゃないか。俺はさっそく遊びに向かおうと、玄関の扉に手を掛けた。
 いや、ちょっと待て。俺が出掛けている間に、ずる賢い空き巣が入ってきたらどうする? いくら防犯設備を揃えたって、やつらはどこからともなく侵入してくるのだ。俺にはわかる。俺なら、俺の家のどこが脆弱か、家主はいつ家を離れるか、すべてを徹底的に洗い出し、必ず侵入するだろう。
 だめだ、だめだ。どんな防犯設備を揃えたってだめだ。家を離れた少しの隙に、あいつらは俺の財産を掠め取っていく。
 それを防ぐには、もはや永遠に家にいるしかあるまい。二度と外なんぞに出てやるか。俺は残りの人生を、この中で、この中だけで過ごして死んでやる……。
 俺を外に出せるものなら、やってみるがいい。
(了)