第18回「小説でもどうぞ」佳作 頭上風力発電/桝田耕司
第18回結果発表
課 題
噂
※応募数273編
「頭上風力発電」
桝田耕司
桝田耕司
21世紀、気候変動やエネルギー問題を後回しにして経済発展へと舵を切った人類は、かつてない難題に直面することになった。
20××年、生存の危機を脱するため、世界中の権力者が一堂に会する。戦争、紛争、宗教を超えた密室談合の結果、人権を無視した奇策に打って出ることになった。
「くぅ~、いい感じだぜ」
ビシッと、リーゼントを決める。男の中の男しか選べない髪型だ。学ランをはおり、薄い鞄を持つ。
「ヘルメットをかぶりなさい!」
「けっ、ダサすぎるぜ」
自他ともに認める不良が、大昔のコメディアンのような恰好はできない。
「スマホも使えなくなるのよ」
「いらねぇよ」
母の手を払う。学校で誰かのスマホを奪えばいい。不良漫画は最高だ。アニメも一流の不良になるための教材になる。
裏の目的を知っているのは、幼馴染みのがり勉だけだ。
肩をいからせて歩く。道行く人間は、共通のヘルメットをかぶっている。
「おい、ダサ坊、スマホ貸せよ」
「あっ、今、充電中だから……」
スマホの画面を突き付けられる。3%だ。二時間は歩かないと、100%にならない。登下校で充電し、家で使いきるオタクは、午後のターゲットだ。
がり勉の背中を見つけて駆け寄る。七三眼鏡男は、ほとんどスマホを使わない。
「おい、スマホを貸せ」
「法律に従ってください。今日から完全義務化ですよ。知らないとは言わせません。罰則規定もあります。ヘルメットをかぶらないと、警察に追われるかもしれません」
「ば~か、死んでもかぶらねぇよ」
協力者である幼馴染みに暴力はふるわない。主税に意見できる数少ない存在だ。
「ブラックリストに載ったら、指紋認証でネットを切断されます」
「お前の頭で、俺のスマホを充電しろや」
がり勉の頭から垂れるコードに、主税のスマホを繋いだ。
「見つかったら、脅迫されたことにします」
「勝手にしろ。休み時間も歩けよ。運動不足解消にはちょうどいいだろ」
ヘルメットの側頭部をコンコンと軽く打つ。
人類は皆、小型風力発電用のヘルメットをかぶらなければいけない。トンボの
エネルギー不足を補う政策に従うか、文明の利器を捨てるか。二者択一を迫られた結果、自給自足の田舎暮らしをする1%を除き、滑稽なヘルメットを装着して外出するようになった。
単車どころか、自転車でも発電できない。キックボードも同じだ。電動化した製品をさけるため、ウォーキングに限定されている。
スマホ利用のために歩く人間が増えたことにより、肥満率が改善された。医療費削減効果もあったと、自画自賛する連中を殴り倒すことはできないのだろうか。
「おい、がり勉。ここのロックを外せ」
「いい加減にあきらめたらどうですか」
「うるさい。俺は政治家の闇を暴きたいんだ。情報収集のために協力しろ」
天才少年の肩をつかむ。
「まぁ……私も歩くのは嫌です」
スマホに記号を打ちはじめた。
「おい、そこのリーゼント! 風力発電拒否罪で、逮捕する!」
公僕が警棒を振り上げた。
「チッ、逃げるぞ」
がり勉を背負い、全力で走る。デブ中年に高校生が負けるわけがない。
貴重なパトカーを呼ぶほどの重罪ではないはずだ。ガソリン代のほうが、罰金よりも高くつく。
学校の校庭を突っ切り、裏山に広がる森へと踏み入った。
「はぁ、はぁ……ここまではこないだろ。ロックは外せたか?」
「あ、あの……」
がり勉の顔が真っ青だ。
「いざとなったら、人質にされたと言え。お前に迷惑はかけない」
「いえ、僕も戦います。これを見てください。信憑性が高い情報です」
スマホ画面をのぞき見る。
「ま、マジか!」
世界中の権力者が集結した会合の最重要議題が「カツラを使わずにハゲを隠す方法はないか」だったという情報は真実だろうか、ただの噂話だろうか。
(了)