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第18回「小説でもどうぞ」選外佳作 何でそんなことに/平井“ファラオ”光

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作文・エッセイ
小説でもどうぞ
結果発表
第18回結果発表
課 題

※応募数273編
選外佳作
「何でそんなことに」
平井“ファラオ”光

「知ってる? 中山の奴この前サソリに刺されたんだって。で次の日目が覚めたら口から毒液吐けるようになってたらしいよ」
 最近我が高校にて持ち切りの噂話である。実際そんなわきゃないのだが、噂というのは怖いもので、人から人へ伝わるうちに段々と変化していき、最終的には事実と全く異なる内容に変わっているのだ。ましてや学校というのは噂話の宝庫で、ありそうなことから眉唾的なことまで、様々な噂が日々生徒の間でWI-FIの如く飛び交っている。
 あるとき、僕はふと思った。噂とは一体どこでどのように変化しているものなのだろう?
 それを確かめる術はただ一つ。噂のルーツを辿ることだ。つまり噂話をしている人に対し、それを誰から聞いたか確認し、その誰かがどう説明したかを確認するという流れを繰り返していけば、噂話がどこでどう捻じ曲がっていったのかがわかるという寸法だ。
 というわけで思い立ったら行動。まずはサンプルとなる噂話だが、やはり今最もよく聞く「スコーピオン中山事件」以外ないだろう。僕はこの話を同じクラスの辻君に聞いたので、辻君が誰に聞いたのか確認してみる。
「僕は隣のクラスの美紀ちゃんに聞いたよ」
 ではその美紀ちゃんが辻君に何と説明したかを聞いてみよう。
「私は中山君がサソリに刺されて、三日寝込んだ後起きたら毒液を吐けるようになってたと説明したわ」
 なるほど、僕が聞いた内容とほぼ同じだ。そして美紀ちゃんはその話を藤崎君に聞いたというので、今度は藤崎君に聞いてみよう。
「俺は中山がサソリに刺されて、しばらく苦しんだ後口から毒液を吐けるようになってたって説明したぜ」
 また同じだ。意外と変わらないものだな。そして藤崎君は轟君に聞いたというので轟君に聞いてみよう。
「僕は中山君がサソリに刺されて、一週間ほど入院した後、口から毒液を吐けるようになってたって言ったよ」
 おかしいな。こんなに変わらないものか?  毒液吐くまでの日程以外何も変わってないじゃないか。待てよ、ということは……中山の奴本当に……?
 まさかのスーパーヒーロー誕生(ヴィランかね?)の予感に震えながらも、轟君は水野さんから聞いたというので水野さんにも確認してみる。
「私は中山君が広瀬さんに振られて落ち込んでいるところを真中さんに励まされて、二人が今付き合ってるって轟君に説明したわ」
 轟じゃねえかよ。
 ちょっと待て、轟急にどうしたんだよ。今の話が何で毒液がどうとかいう話になるんだ。いや、まあ確かに彼は普段からちょっと独特というか、変わったタイプではある。
 そこで僕は疑いに確信を持たせるため、轟君にある実験を仕掛けてみた。
「轟君、知ってる? 山田君って宮原さんのこと好きらしいよ」
「ええっ、そうなの?」
 そしてしばらく轟君を観察していると、案の定僕の嘘話を誰かに話しに行っているようだ。相手は西川君。よし。
「西川君、さっき轟君何話してた?」
「ああ実はさ、山田君ってお腹のポケットでカンガルーの赤ちゃん育てててさ、成長したらプロボクサーにするつもりらしいよ」
 やっぱり轟じゃねえかよ。
 というか何でそんなことになんだよ。どんな思考回路でそこまで話が捻じ曲がるんだ。
 僕はますます轟君に興味が湧いてきたので、さらなる実験として彼に連想ゲームを仕掛けてみることにした。
「轟君、マジカルバナナやろう。じゃいくよ。♪マジカルバナナ♪バナナといったら黄色♪」
「♪黄色といったら浅田真央♪」
 何でだよ! 何でそんなことになんだよ!
 聞いてみるとどうやら黄色→バナナ(戻るのかよ)→滑る→氷→スケート→浅田真央ということらしい。何と、あの一瞬でそこまで連想を?
 僕は感動した。実は轟君とはとてつもない天才なのではないか?
「ねえ轟君、君凄いよ。君芸術家とかに向いてるんじゃないかな? もしまだ進路決まってなかったらそっちの方目指してみたら?」
「え? そうかなあ? うーん……まあ君がそう言うならいいかもね」
 凄い。凄いぞ。これはまさに天才覚醒の瞬間である。十年後に彼が新進気鋭の芸術家として世に出ている頃、その彼を発掘した男として僕も隣に立っているかも知れないのだ。

 そして十年後、彼はアラブの大泥棒として国際的な指名手配犯になっていた。
 何でそんなことになんだよ。
(了)