第5回W選考委員版「小説でもどうぞ」選外佳作 提出起源/尾崎一公
第5回結果発表
課 題
魔法
※応募数250編
選外佳作
提出起源
尾崎一公
提出起源
尾崎一公
見つからない……。
いくら探しても魔法誕生の正確な資料が見つからない。最初に発見された魔法使いについての資料しかなく、誕生についての資料は一切ない。
魔法史の研究所にいる以上、適当な資料にはできない。しかしこだわり過ぎて提出が大幅に遅れていた。
上司からメールが届く。資料報告についてだった。
『いつまで待たせている、早く研究成果をまとめろ、でないと即刻追放する』
思わずため息が出る。報告をしようにもまとめる資料がない、無理なものは無理だ。
「……どうすれば良いんだよ」
頭を抱えている中、妙案が浮かぶ。
資料がないなら自分で見て聞きに行けば良いのでは。
保管室の魔道具を確認する。そこにはタイムマシンと記された魔道具が保管されている。無断使用は禁止だが、幸い今日は人が少ないので今すぐ行けば見つかる心配はない。
背に腹は代えられないので保管室へ走る。タイムマシンは小さな箱にしまわれているだけで簡単に取り出せた。
上に手を置き、魔力を込めて行きたい年代、場所を思う、それだけで過去へ行ける優れものだ。
「魔法使い発見の時代、五〇〇〇年前へ!」
気がつくと見知らぬ景色が広がっていた。
少し先に町が見える。目的の発見された町だ。住人に怪しまれないよう魔法で認識を変え、町に入る。小さな町で発見場所も分かっているため苦労はしそうにない。
発見場所の周囲を見張る。人の行き来が少ないためしっかり観察できた。しかし、それらしき人物はいくら待っても現れなかった。
来てから二週間、見張りを続けるが、今日は人一人もいない。すでに食料は尽きたため住人を呼び止め、魔法で騙して食料を確保していた。
持ってきた資料を確認する。
「おかしいなぁ」
時代も場所も間違いない。数日の誤差を考慮したうえで過去に来ている。見つからないはずがなかった。
やっと通った住人を呼び止め、杖をかざす。
「食料を分けて下さい」
上の空になり食料を取りに向かう。食料確保に安堵して眺めていると、
「今のなに? どうやったの?」
振り返ると少年がこちらを見ていた。
――まずい、見られた――
急いで少年に忘却魔法をかける。
「忘れろ!」
少年はその場に倒れ、眠りこむ。しかし、
「なんだ今のは⁉」
「持ってる棒が光ったぞ!」
いつの間にか他にも、それも二人に見られてしまった。
興味を持った住人は騒ぎながら近づいてくる。
「今のなんだよ、教えてくれよ!」
二人の声を聞いて野次馬がどんどん集まっていく。いつしか町中の人に囲まれていた、人々は杖に手を伸ばしている。
このままでは歴史を変えてしまう。急いでタイムマシンを取り出す。
「現代へ!」
気がつくと保管室にいた。杖がない、どうやら取られてしまったらしい。
なんの収穫もなく、杖も取られる。追放を覚悟し落胆する。自室に戻るため振り向くと、そこには上司がいた。
上司は腕を組んでこちらを見ている。
「おい、過去で何してた」
過去に行ったのがばれてる以上、隠しても意味がない。正直に白状した。
「五〇〇〇年前で魔法誕生のことを探ってました……そこで杖を取られました……」
追放、その一言を覚悟した。しかし、
「そうか、では引き続き魔法史の研究を続けてくれ。今回は一切の処罰はない」
一言も責めることはなかった。
「え? どうして処罰がないのですか」
上司は一つの資料と写真を取り出す。
「魔法はとある杖の解析から生まれた。これが君の探していた魔法誕生の起源だ、見たまえ」
受け取った資料には、最初の魔法使いはほぼ自分と背格好が一致しているとあり、写真にはまぎれもなく自分の杖が写っていた。
(了)