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第5回W選考委員版「小説でもどうぞ」発表 選考会の模様が読める! 次作の指針になる!

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作文・エッセイ
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小説でもどうぞ
結果発表

選考会では両先生が交互に感想を言い合い、採点しています。作品の内容にも触れていますので、ネタ割れを避けたい方は下記のリンクで事前に作品をお読みください。

1981年『さようなら、ギャングたち』でデビュー。すばる文学賞、日本ファンタジーノベル大賞、文藝賞などの選考委員を歴任。

1971年群馬県生まれ。同志社大学卒。2003年オール讀物推理小説新人賞を、2018年『銀河鉄道の父』で直木賞受賞。

願いの叶え方は
面白かったが、
ただのいい話かな
オチをつけずポンと
投げ出したのがいい
――最初は「愚か者よ、こんにちは」(渡鳥うき)からです。

高橋それではぼくからいきましょう。この作品は主人公がケガをして、むしゃくしゃするので書き込みをしたら、魔法サイトから望みを叶えてあげると言われるというお話です。それで不眠症を治してくれと頼み、治るのですが、最後に〈魔法使いは愚か者のところに現れるから平和など願わない。〉とあり、これがよくわからない。というより、終わっているの? これはオチがついているのかなあ、ついてない気がする。話はわかりましたが、オチがついてないので、△マイナスにしました。

門井実はぼくは○でして、ラストの部分はオチをつけず、ポンと投げ出したところがよいという評価をしました。最初の一文〈夜勤明けから帰る途中に転んで肩の骨を折り、前歯を二本なくした。〉という書き出しがうまくて引き込まれ、結末もこの作品の中では一応、合っていると。ぼくはそこをポジティブに見たため、全体も高評価になりました。

高橋なるほど、そう見ますか。オチを求めてないんですね。これが二人で選考する面白さですね。そう読むのかと思います。ぼくは一度読んでわからず、二度読みましたが、オチがわからなかった。

門井確かに戦争の場面が出てくるのは唐突ですし、前半との結びつきも弱いとは思いましたが、全体的には○としました。

――次は「きくらげ草の花言葉」(味噌醤一郎)です。

門井今回は魔法がテーマですが、この作品には魔法がほぼない。魔法という言葉しかない。三十路直前の女の人が居酒屋に行ったらきくらげ草が置いてあり、そこに元彼がいて家に来て、きくらげ草を料理して食べさせたら催淫効果で押し倒され、ブラジャーをとる。この作品はオチがついているが、きいているというよりはうまく終わらせたということであって、話自体はその前に終わっています。きくらげ草は魅力ある小道具だとは思いますが、主人公との関係がわからず、最後までなんでこんな料理ができるのか、なんで催淫効果とか知っているのかと引っかかってしまう。それを考えると、小道具がいい割には生かされていないということで△にしました。

高橋この作品だけが本当の魔法を使わず、「料理も魔法よね」としている。そこはいいと思いました。ただ、あまりにも不自然だよね。偶然、元彼と会って、しかもきくらげ草を持っていて、焼けぼっくいに火がつく。これをすべて料理の魔法だけで終わりにするのはどうかな。下品な感じは嫌いじゃないけど、ちょっと乱暴かなということで△です。

――三つ目は「首だけのキリン」(阿南改)です。

高橋一輪挿しからキリンが出てきて願いを叶えてくれるという話。願いの叶え方が面白くて、上司を変えたけど、ブラック企業だから新しい上司になっても仕事は楽にならないとか、疲れを感じない体にしたけど、本当は疲れているから倒れちゃうとか。それで最後にキリンに脚をつけてやって、いいことをしたおかげで転職すればいいと気づく。いい話ではあるけど、ただのいい話かな。悪くはないけど、ひねりがなくて、よくもないということで△にしました。

門井ラストの1行で落ちるならいいんですが、4行前で「どうして転職しないんだ?」と聞かれていて、〈転職をしてみてもいいかなぁ〉がだめ押しになっている。オチでこれをやっちゃうと読後感半減ですよね。キリンもいいし、書き出しも悪くないので期待しましたが、いいところはあるんだけれど……ということで△です。

オチよりも、
途中が抜群に
面白く、完璧
作中の詩がよくないと
説得力がない
――4番目は「これを魔法と呼ばずして」(山崎雛子)です。

門井詩というものが人間にとって一番の魔法だと言いたいのだろうと思います。その点では共感はするんですが、残念ながら最後にそれを詩的に歌いあげている部分が詩的ではない。

高橋うわあ(笑)。

門井ちょっと酷かもしれないんですけれども、〈私はノートに直立している、酷く右肩上がりで不恰好な文字列を眺めた。〉以下の段落がきれいだと、詩というものが生きるかなと思いました。それと男の子にとっての王国と主人公にとっての王国の中身が一致していないので、そこにわからないところが残る。ということで×にしました。

高橋ぼくは基本、いい話が好きです。いい人だから(笑)。いい人じゃないからか。まあ、いいや(笑)。子どもを使っているところがずるい。いじめられているんだよね、きっと。猫も死んじゃって、それで孤独な少年が自分の王国を魔法で作りたいと。というものに共感して、自分も詩の王国を作る。いい話と言えばいい話ですが、やっぱり〈わが指先に舞い降り集う小鳥の如く/私の脳髄をついばむ言の葉たちよ/いざ、〉この詩があまりよくない。この詩がよくないと説得力がない。少年と行き場所を失った大人という設定はよくて、これでいい話が作れるとは思うけど、これではないんだよなということで、△マイナスにしました。

――5番目は「コンビニの前で」(樹村あさひ)です。

高橋ウエムラという男に仕返しをしようとして、呪文を唱えていたら、自分がいじめていたケンジに仕返しをされる。ケンジもまた別の子に仕返しをされ、ウエムラはケラケラ笑っている。魔法を生死にかかわるようなものに使うのではなく、ふざけて使っている。最後にウエムラも無関係に立っているんですよね。ハードボイルドと言えばハードボイルドだけど、これはどうなんですか。

門井罰としてかゆみを与えようとか、解除しようとすると五千円かかるとか現実味があり、スマホが出てくるというのもカジュアルで好感を持てますが、結局、ここで何が起きたかというと痒みのリレーに過ぎない。因果応報のようなことを書きたかったのかもしれませんが、そこまではいっていない。ストーリーとしてこれをいいとは言えず、ぼくは×にしました。

高橋最後に出てくる男の子もわかりにくいですね。最初、ケンジかと思いました。ということで、△マイナスにします。

――6作目は「魔法詐欺師にご注意を」(白浜釘之)です。

門井最初に出てくるのが警告なんですね。叶えますではなく、叶えるというやつには気をつけてくださいと。魔法ものとしては気が利いている。それと途中が面白い。三億円が欲しいと願うと三千万枚の十円玉が降ってくるとか、アイドルと結婚できたが、相手は了承していないとか。このパターンに引っかからないようにするにはどうするかと考え、世界の幸せを願う。それが功を奏しすぎて世界が滅びる。途中が面白く、最後もオチになっているので○にしました。

高橋ぼくも○です。面白かったですよ。途中が抜群ですね。三千万枚の十円玉もいいし、国家予算並みの金額を要求したら赤字国債で借金。なるほどそう来るかと。アイドルとの結婚は公文書偽造でこれもいい。最後の不老不死は、昏睡こんすい状態でも人は死にますのでここは直したほうがいいと思うが、瑕疵かしはここだけで、あとは完璧。これ、どう終わらせるのかと思ったら、世界中の人が笑って暮らせるように願い、世界は笑いながら滅亡する。ブラックですよね。ブラックはこれ見よがしになることもあるのですが、テンションが高くならないで、ずっとブラックをやるのはなかなかうまいですよ。

答えを全部、
書かなければ、
寓話になった
甘い設定に、作者が
甘えすぎている
――7番目は「幸せの黄色い財布」(樺島ざくろ)です。

高橋ぼくのいい人モード発動です(笑)。夫の形見の財布があり、三万円が入っている。非常に小さいサイズの魔法ですよね。それが魔法なのではなく、この幸せが魔法だと。人情ばなしですよね、普通のね。○にはできないけれど、ぼくは人情噺に弱い(笑)。それと文章の人柄がいいので、△プラスにさせてください。

門井すみません、ぼくは×です。

高橋やっぱりそうか!(笑)。

門井甘いトーンは悪くないのですが、この奥さんは幸せのためになんの寄与もしていない。くじ運だけでいい旦那さんを引いて、旦那さんは亡くなっても祈っていてくれて三万円を獲得し、それを何に使ったかと言えば子どものゲームとおすしですよ。甘いシチュエーションに作者が甘えすぎているのではないかと考えました。

――最後は「奥様の魔法」(深見将)です。

門井○に近い△プラスです。社長がミナミコアリクイになったと。中盤の会議のシーンが面白くて、厳しい営業会議にもかかわらず、みんながキュンとときめいてしまう。社長が言う「原因なきものに解決なし」というビジネス書っぽいセリフとのミスマッチも気に入りました。ただ、奥様が社長をミナミコアリクイに変えたのは会社のためだったと最後に言うのは若干、理に落ちたかな。理由もなくミナミコアリクイにするのであれば、理由もなく最後までこのシチュエーションの面白さで突っ走ったほうがよかったんじゃないかな。

高橋ぼくも△プラスです。面白かったですね。ミナミコアリクイってもっと大きいのかと思ったら、ちっちゃいんだよね。コーギーぐらいの大きさと書いてあって、ええ?と。全体に漂うユーモアがあり、登場しない奥様もたぶんユーモアがある。なんにでも変えられたと思うのに、ミナミコアリクイを選択するのはなかなか渋いです。威厳はあるけど、近づいてみるとちっちゃい。シンボリックなものに変えている。考えられた話です。ただ、最後に〈奥様は最高の魔法を我が社にかけてくれたわけだ。〉とまで書くことはないよね。そうストレートに言わなくても。もうちょっとうまく書いたら、いい感じの寓話的な話になったのになあと。実は魔法ではなくて、本当にミナミコアリクイがいただけかもしれないし、社長は本当にいて、みんなが勝手に妄想していただけかもしれない。答えを全部書く必要はなかった。書かなければ、もっと大きな豊かな話になったんじゃないかな。惜しかった。

――お二人とも「魔法詐欺師にご注意を」が○です。ということで、これを最優秀賞とします。