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第22回「小説でもどうぞ」佳作 祭りのあと 旭川仁

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作文・エッセイ
小説でもどうぞ
結果発表
第22回結果発表
課 題

※応募数242編
祭りのあと 
旭川仁

 最初から、終わりがあるとわかっているような恋だった。付き合い始めたのは僕が高校二年生の夏。彼女は大学受験を控えた三年生。次の春が来ればこの学校を卒業してしまう人。無事に大学に合格すればこの街からも去ってしまう人。

 夏休みに入ってすぐ、家の近くで行われる夏祭りに彼女と行った。二人とも浴衣を着ていた。立ち並ぶ屋台の出店、人々がまとう色とりどりの浴衣。そうした夏祭りの賑やかさ、華やかさは、彼女が受験生であるということを差し引いても、これから始まる夏休みへの期待感を高めてくれた。
 祭りの終わりには打ち上げ花火が上がるのが恒例となっている。毎年その花火を見ると、祭りが終わったんだなあと思うものだが、今年はそうではなかった。それよりもこれから夏が始まるんだという高揚感がまず先にあった。
「あの花火が好き」
 打ち上げ花火の終盤に、彼女が空を見上げて言った。金色の、しだれ柳みたいな花火。大きく開いて、柳の葉のようないくつもの金色の筋が、ゆっくりと降りてくる。僕も一番好きな花火だった。

 彼女の受験勉強の合間を縫って、高校からの帰り道や、近くのファミレスで会う。時には僕も彼女に付き合って一緒に勉強をする。いつかは終わりが来る、そんなことを頭の片隅で考えてしまいながらも、そうした彼女との日々は楽しく、「今」だけが全てであるかのように鮮やかに過ぎ去っていった。

 そして卒業の日。彼女は無事に第一志望の大学に合格していた。
「このあと一緒に帰るでしょ? 教室で皆とバイバイしてくるから、ここで待っててね」
 多くの卒業生と在校生たちが入り交じる体育館の前で、彼女は言った。
「でも今日はクラスの打ち上げとか、そういうのがあるんじゃないの?」
「一度家に帰って荷物置いたあとに、また皆と合流するから大丈夫。今日が高校に来る最後の日なんだから、一緒に帰ろうよ」
 彼女が僕との時間やイベントごとを大切にしてくれるのはとても嬉しい。でもその特別感が、なぜだか終わりが近づいていることを暗示しているような気がして、少し寂しい気持ちになった。

 彼女がこの街を離れる日。僕は家の近くで彼女と待ち合わせ、そのまま駅まで見送りに行った。
 彼女の乗る電車がホームに近づいてくる。別れ際に彼女が言った。
「またゴールデンウィークには帰ってくるからね。その前に遊びに来てくれてもいいんだし」
 なぜ遠くに行ってしまうのか。頭ではわかっていても、文句の一つも言ってやりたかった。が、それは何とか最後まで踏みとどまった。
 
 彼女を乗せた電車が、まっすぐ伸びた線路に沿って向こうへと遠ざかっていく。それを見送ったあと、何だか体からふっと力が抜けてしまったような感覚を覚えた。
 駅を出て、自転車にまたがる。さっきまで彼女のバッグを載せていた、空っぽのかご。さっきまで彼女を後ろに乗せていたときよりも、あまりに軽いペダル。見上げるとそこには柳の葉が揺れていた。その向こうにある青空が涙で滲む。
 決定的に何かが終わったわけではない。これからも日々は続くのだ。でも僕の中では何かが一つ消失したような感覚があって、例えるならばそれは、季節の一瞬を鮮やかに過ぎ去っていく祭りのようなものなのかもしれない。
 祭りのあと。花火の終わり。そこに残る、微かな熱と寂寥。
 そんな気持ちを胸に抱きながら、僕はあまりに軽い自転車のペダルを漕いでいく。
(了)