あなたとよむ短歌 vol.42 テーマ詠「記念日」結果発表 ~「字足らず」ってアリ?~
テーマ詠で短歌を募集し、歌人・柴田葵さんと一緒に短歌をよむ(詠む・読む)連載。
(『母の愛、僕のラブ』より)
テーマ詠「記念日」結果発表
~「字足らず」ってアリ?~
短歌を読む・詠む連載、「あなたとよむ短歌」。
今回はテーマ詠「記念日」の結果発表です。
記念日の短歌といえば、俵万智さんの《「この味がいいね」と君が言ったから七月六日はサラダ記念日》が有名ですね。今回の投稿歌にも、サラダ記念日に影響されたものや、パロディ、オマージュが多く寄せられました。
一方、誰にでも何かしら記念となる日はあるはず。応募作品をすべて拝読する立場としては、自分らしく「記念日」を詠んだ作品に心が惹かれました。
それでは、最優秀賞の発表です!
7年前に結婚した日
仕事や学校、診察予約、通販など、なにかと必要になるパスワード。「自分の誕生日などわかりやすいものは避けるように」と言われています。そこで結婚記念日の数字を使い、日々入力しているのでしょう。
結婚して7年。結婚記念日も7回目。特に意識せず、忘れてすごしてしまう家庭も少なくないかもしれません。それでも、それでも、パスワードを入力する手だけは自然と動いて結婚記念日を入力する。なんだか不思議ですね。
「記念日」というテーマを的確に捉えながら、他にない視点で表現した作品でした。なんやかんやで、けっこう仲良し夫婦な気がするのも、この歌の面白いところです。
続いて、優秀賞2首です。
書き留めなくてもいいから親友
はじめて会った日、はじめてご飯を食べにいった日、はじめてディズニーに行った日。もちろん誕生日もあるでしょう。そうした記念日を意識する必要がなく、自然体でいられる「親友」との関係を、意表をつく形でぴったりと表した一首です。
上句「あなたとは数え切れない記念日を」まで読んだ時点では、ほとんどの読者が「記念日を大切にする……という内容が続くんだろうな」と予想すると思います(私もそうでした)。
それを「書き留めなくてもいい」からこそ「親友」である、と言い切る意外さ、納得感、かっこよさ。とても素敵な作品です。
集い先祖の法要を編む
誰かが亡くなり、新しい命が生まれ、入れ替わりながらも親族として集う人間の不思議さ、静かな力強さを感じる一首です。
「法要を編む」という表現が秀逸。編むという動詞には「日程を編む」などの使い方もあるにはありますが、「法要を編む」とはめずらしい使い方ではないでしょうか。
「一人欠け一人増えして」という部分には、編み物の棒を出し入れするようなイメージも重なります。よろこびや悲しみ、ときには憎しみや恨みもひっくるめながら、命が脈々と編まれていく凄みを感じます。
それでは、佳作のご紹介です!
最後に、こちらの作品を読んでみましょう。
「○」は「マル」と読むのでしょう。両親の結婚記念日まで覚えていらんないよ、という気持ちと、一応はお祝いしたいような気持ちと、なんとも微妙な心情が表現されている一首です。
気になったのは下句。「あんまり覚え/てられないから」だと確かに7音7音の定型なのですが、実際に声に出して読んでみてください。「あんまり覚えて/られないから」というふうに読んでしまいませんか?
「あんまり」の「ん」は撥音といって、直前の母音にくっついて1つの音節を構成します。つまり、音読のリズム的には「あん・ま・り」と3音のように読まれるのです。
「ん」は1音として数えるのが短歌のルールだといえばそうですし、定型から外れること自体がNGではありません。ただ、実際に音読すると、多くの人は「あんまり覚えて/られないから」と読むでしょうし、そうなると結句が「字足らず」の状態になります。
面白いことに、人間は「字余り」は早口になるなどして割と読めてしまうものなのですが、「字足らず」だとガクッとつまずくような印象を持つようです。あると思って座ろうとした椅子を、急に引かれたような感じでしょうか。
たとえば上記のようにするといかがでしょうか? 音読したときに、グッと収まりよく感じると思います。
声に出して読んでみるとわかりますが一首ができた、と思ったあとにはぜひ音読をオススメします。音読すると「音を詰め込もう」「外そう」など、意識的に「字余り、字足らず」を取り入れられるかもしれません。
作品のご投稿ありがとうございました。引き続き、テーマ詠「くだもの」を募集しています。
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発表 | 2023年11月1日 |