せきしろの自由律俳句 第81回「小銭」結果発表 (2/3)
第 81回 課題: 小銭
佳作
錆びた10円玉から使う
(岐阜県 次元 32歳)
自販機にゆっくり入れてみる
(鳥取県 きゅうりのたこよ 33歳)
募金しそうな人を目で追う
(神奈川県 へやぼし 34歳)
父が空けた酒瓶に父は貯めない
(宮城県 カズタカ 46歳)
百円玉をみせても泣き止まない
(福岡県 青馬(セイマ) 70歳)
賽銭箱があれば覗く
(長崎県 毎日ハッピー 45歳)
百円拾った日の世界の美しさ
(島根県 キラキラ金魚 19歳)
財布が重い原因ランキング1位
(滋賀県 K 17歳)
財布を肥満にさせる
(大阪府 反時計 24歳)
錆びてない方の5円玉投げ入れる
(大阪府 まちこまち 18歳)
賽銭箱に一円玉を五枚入れる
(静岡県 桜咲 18歳)
友人の両替を待つ時間
(福島県 きりんのき 21歳)
生まれ年だ愛着
(千葉県 桜那恵 26歳)
神様の前で五円を借りる
(大阪府 水槽 31歳)
端数誰が払ったか聞いてくる者もおらず
(大阪府 フルカワ 32歳)
手のひらにお小遣いの匂い
(東京都 水面叩 32歳)
レジで受け取る小銭2月の温度だ
(北海道 エリンギ 36歳)
小銭連れて散歩
(東京都 しまこう 36歳)
小銭入れの中に抜けた乳歯
(大阪府 雨あめ 83歳)
新年の願い事無理だと笑う五円玉
(千葉県 牛美 85歳)
バス停に急ぐ祖母の手の中に280円
(愛知県 わたり 15歳)
『錆びた10円玉から使う』。古ぼけた硬貨を使ってしまいたい気持ちはわかる。しかしそれには多少の緊張が伴うものだ。店員に「これは錆び過ぎているのでだめです」なんてことを言われたらどうしようと、私はいつもドキドキしながら出す。多分言われないだろうが。『自販機にゆっくり入れてみる』。自動販売機に何度入れても戻ってくる硬貨。ゆっくり優しく入れてみるとOKの場合がある。逆に勢い良く入れてみた方が良い時もある。自動販売機の個性だ。『募金しそうな人を目で追う』。私は喫茶店にいることが多い。いつも店の窓からぼーっと外を眺める。募金活動をやっていれば見るし、ティッシュ配りも見るし、誰かの自転車が撤去されるのも見る。そこに生産性はない。しかし自由律俳句になるものはある。『父が空けた酒瓶に父は貯めない』。カッコ良さを感じる句だ。貯金箱にはしなかったがもしかしたら飲み終わったワンカップを普通のコップとして使うことはあっただろう。『百円玉をみせても泣き止まない』。泣き止ませるためにおもしろい顔もしたし、おもしろい声も出した。しかし効果なし。そこでとっておきの百円玉だったに違いない。どう使ったのだろう。『賽銭箱があれば覗く』。たしかに覗く。たいていは中が見えないタイプであるが、初詣の時の特設賽銭箱は見放題だ。『百円拾った日の世界の美しさ』。拾った時に世界が美しくなる硬貨第1位は百円玉なのかもしれない。五百円玉では様々な感情が生まれてしまう。あとちびまる子ちゃんの曲が流れる硬貨1位でもある。『財布が重い原因ランキング1位』『財布を肥満にさせる』は題材が良いし視点も悪くない。しかし俳句になりきれていなさも残っている。公募ガイド本誌で自由律俳句の添削を行なっているので興味があったら見てもらいたい。