誰でも一生に一冊小説が書ける。⑦:公募ガイド流文学賞必勝ガイド 地方文学賞編


地方・自治体文学系
自社の雑誌を持たず、担当編集者もつかないので作家育成の場としては弱いが、次への弾みになることも。『みをつくし料理帖』の高田郁は、北区内田康夫ミステリー文学賞(このガイドでは掲載していない)の区長賞を受賞後、小説NON短編時代小説賞(奨励賞)を受賞しデビュー。高嶋哲夫は、北日本文学賞を受賞後、サントリーミステリー大賞を受賞してデビュー。プロの登龍門的賞より応募数は少なめ、賞金は高めなのが特徴。
坊っちゃん文学賞:表現にとらわれない斬新な青春小説を
沿革・趣旨
正岡子規、高浜虚子などの俳人を輩出し、夏目漱石の代表作『坊っちゃん』の舞台となった松山市が、新しい青春文学の創造を目指して1989年の市制100周年を機に創設。斬新な作風の青春文学を隔年で募集している。受賞作はマガジンハウスの『Hanako』誌に掲載。
過去作品の傾向
第12回(2011年)受賞は、一人暮らしを始めた女子大生のぎこちない生活を描いた『桃と灰色』(真枝志保著)。第13回(2013年)の受賞作は、400メートルリレーで全国大会を目指す小学生たちの物語『キラキラハシル』(桐りんご著)。第14回(2015年)受賞作は、文化祭前のひと夏の女子高生たちの心の動きを描いた『名もない花なんてものはない』(卯月イツカ著)。若者の繊細な心情を今までになかった表現で描いた作品が選ばれる傾向に。
DATA
枚数:80枚~ 100枚
応募数:911編(第14回)
賞金:200万円
主催:松山市ほか
https://bocchan-shortshort-matsuyama.jp/
太宰治賞:最終候補作はムック本として筑摩書房から発刊
沿革・趣旨
三鷹市と筑摩書房が共同主催する新人文学賞。第14回までは筑摩書房のみで行っていたが、一時中断。太宰治没後50年の1999年より現在の形に。受賞は選考委員の合議によって決定。 受賞作は翌年5月に、PR誌「ちくま」とホームページで発表。応募枚数が50枚~ 300枚なので、短編、長編どちちらでも応募できる。中断前に宮本輝、宮尾登美子、中断後は津村記久子(いずれも芥川賞作家)を発掘している。最終候補作はムック本として筑摩書房から発刊される。
過去作品の傾向
第31回(2015年)受賞作は、過去に虐待されたことのある父が危篤状態だと知った主人公が人生と向き合う『変わらざる喜び』(伊藤朱里著)。第32回(2016年)受賞作は、目的もなく生きていた主人公が、人里離れた不思議な村で「祖父」とくらす『楽園』(夜釣十六著)。斬新な作風や人間関係に重きを置いた青春文学が選ばれている。デビュー作が芥川賞や三島由紀夫賞候補になるような実力派を輩出。完成度の高い作品が多く集まるのが特徴。太宰治を顕彰した純文学系の賞。
DATA
枚数:50枚~ 300枚
応募数:1,473編(第32回)
賞金:100万円
主催:筑摩書房/三鷹市
https://www.chikumashobo.co.jp/blog/dazai/
やまなし文学賞:風土や歴史を感じさせる力強い作品が求められる
沿革・趣旨
1992年(平成4年)に、山梨県にゆかりの深い樋口一葉の生誕120年を記念してスタートした公募。山梨県の文学振興と日本の文化発展のため、小説部門と、研究・評論部門の2部門が設けられている(ここでは小説部門のみ紹介)。
同賞は翌年3月、山梨県立文学館ウェブサイトに公表され、山梨日日新聞紙上、および同紙電子版に掲載。また、受賞作は単行本として刊行される。枚数は手頃、賞金は高額、出版化もするので、アマチュアの腕試しの賞として人気がある。
過去作品の傾向
第23回(2015年)受賞作は、山で焼いた最後の炭を一人で背負い二時間かけて里まで運ぶ主人公が、その道程で何を思うのかを描いた『山峡』(石黒佐近著)。
第24回(2016年)受賞作は、戦後の農村を舞台に、慣れない生活にとまどいながらも新しい家族とともに歩んでゆく主人公の姿を描いた『彩りの郷にて』(山本淳子著 )。
風土や歴史的背景の中で、力強く生きる人間の姿を描いた作品が多く、特徴的である。
DATA
枚数:80枚~ 120枚
応募数:1,036編(第11回)
賞金:259編(第24回)
主催:やまなし文学賞実行委員会
https://www.bungakukan.pref.yamanashi.jp/prize/
ちよだ文学賞:千代田区を舞台とした作品が歓迎される
沿革・趣旨
2006年から実施。千代田区の文化や歴史をPRするとともに、多くの人が活字に触れ、その大切さを考えるきっかけとなることを目指している。ジャンルは不問だが、千代田区ゆかりの人物や、名所・旧跡などを題材にした作品が望まれる。大賞と千代田賞があり、千代田賞は、千代田区がもつ文化・歴史をアピールした作品から選出される。その場所のもつ特徴や魅力をしっかり理解し、生かした作品で挑みたい。最終選考に残った作品は本にし、区役所のほか、一部書店で販売。
過去作品の傾向
第10回(2015年)受賞作は、絵師で木戸芸者の主人公が噺家を目指すなか、耳の聞こえない娘との出会いをきっかけに自らの芸を見つめ直す『初音の日』(梅田丘匝著)。第11回(2016年)受賞作は、小学5年生の主人公が生き別れの姉と出会い、様々な経験をする中、成長する『りんごの芽』(愛内紫音著)。そのキャラクターならでは人生を描いた、人間ドラマ重視の作品が選ばれる傾向に。第3回の受賞作『森崎書店の日々』(八木沢里志著)は映画化されている。
DATA
枚数:120枚以内
応募数:373編(第11回)
賞金:100万円
主催:千代田区
https://www.city.chiyoda.lg.jp/koho/bunka/bunka/bungaku/boshu.html
北日本文学賞:地方発、短編小説の登竜門
沿革・趣旨
1966年、地方からの新人作家発掘を目的に創設された賞。当初は地元富山県からの応募が多かったが、近年では国内外からの応募も多い人気の賞。 短編小説の登龍門として定着している。選者は第1回~第2回までが丹羽文雄、第3回~第25回までが井上靖、26回~現在までが芥川賞作家の宮本輝。 受賞作は元日の北日本新聞に掲載され、ラジオの朗読番組でも発表される。1次~ 4次、最終選考までの結果がすべてサイトで公開される。
DATA
枚数:30枚厳守
応募数:979編(第50回)
賞金:100万円
主催:北日本新聞社
https://webun.jp/feature/special/第58回北日本文学賞
さきがけ文学賞:人間ドラマ重視。幅広い年齢層が応募
沿革・趣旨
1983年直木賞作家の渡辺喜恵子が「秋田の文学振興のために」と寄託したことから創設。応募数は例年250編前後。
大賞は新聞に連載される。第33回(2016年)の受賞作は、シベリア抑留から帰還した祖父の手記を読み、世界を旅する目的が明確になる若者を描いた『西北の地から』(中山夏樹著)。選奨にはシナリオライター三宅直子さんが選ばれた。年齢層は幅広く、今回は64歳と79歳が受賞。受賞作は秋田魁新報社から選集として刊行。
DATA
枚数:100 ~ 150枚
応募数:276編(第33回)
賞金:50万円
主催:さきがけ文学賞/渡辺喜恵子基金
https://www.sakigake.jp/bungaku/entry.jsp
※本記事は「公募ガイド2017年1月号」の記事を再掲載したものです。最新情報は各主催者HPをご確認ください。