笑いを知れば、もっと小説は上手くなる④:落語に学ぶストーリーメイク
落語は短い話が多いので構成を分析しやすい
物語の理想的な構成について、脚本家の君塚良一さんは、「しずむ、ジャンプする、ひねる、着地する」と説明しています。
「しずむ」はトラブルなどマイナスの出来事。「ジャンプする」はそこからの脱出。「ひねる」は意外な展開で、「着地する」は主人公の目的が達成されること。
落語もだいたいそうで、有名な「目黒のさんま」も、殿様が目黒まで遠出したとき、家来が弁当を忘れる(しずむ)、そのとき、庶民が直火焼きしたさんまを食べて舌鼓を打つ(ジャンプする)、城に帰ってからもさんまの味が忘れられず食事に出させるが、日本橋の魚河岸から取り寄せたにもかかわらず殿様は気に入らない。実は殿様用に脂を抜いて調理してしまい(ひねる)、それで殿様は「さんまは目黒に限る」(着地する)。殿様の目的は実現していませんが、次は実現するだろうという含みを持たせて終わっています。
落語は小説よりは話が短いだけに構成を理解しやすく、何度も聞くうちにどう構成すればいいかが自然と身につきます。
ただし、落語の構成を分析してみると、意外と構成自体はシンプルだとわかると思います。それでも単純な構成と思えないのは落語家の語りがうまいからです。
この話芸の部分は、小説で言えば描写力。つまり、シンプルな構成でも、物語に惹き込む描写力があればもつということ。構成力とともに描写力を上げましょう!
小説に生かせる落語の落ち
落語にはいろいろなタイプの落ちがありますが、ここでは小説の構成に応用できそうなものを紹介します。
逆さ落ち
最後に立場が入れ替わるもの。八五郎は大店の三人目の婿がまた死んだと言う。ご隠居は金があって暇で奥方が美人では短命だと言う。八五郎は家に帰り女房を見て「ああ俺は長命だ」。(「短命」)
まわり落ち
結末で話の最初に戻るもの。猫に強い名前を付けようとして、虎がいい、いや虎より龍のほうが強い、龍より雲が強い、風が強い、壁が強い、ネズミが強い、猫が強い……で、もとに戻ってしまう。
頭が尻尾をくわえているのでウロボロスとも言う。(「廻り猫」)
仕込み落ち
落ちの説明を仕込んでおく。小僧は親を騙す悪ガキ。真田幸村は敵の六文銭の旗を盗んで夜襲をかけ、敵を同士討ちさせることで危機を脱したのにとぼやく親に、小僧は「六文銭ってどんな旗?」と六文出させ、それを持ち逃げする。「焼き芋を買おう」という小僧に親は「うちの真田は薩摩に落ちたか」。(「真田小僧」)
梯子落ち
梯子のように一段ずつ進む。掛け物の字は「賛だ」と言われたが、家主のところでは「詩だ」、先生のところでは「悟だ」……三四五六七、次は八と読んで「結構な八ですな」「いや、これは芭蕉の句だ」。(「一目上がり」)
とたん落ち
落ちがついたとたん、話が通る。
旦那は義太夫好き。長屋の住人に聞いてもらおうと呼ぶが誰も来ない。だったら出ていけと怒ると、みんな渋々聞きにくるが、みんな居眠り。見ると小僧の定吉が泣いている。「どこが泣けた?」「いえ、旦那のいるところが私の寝床なんです」。(「寝床」)
名作鑑賞:芝浜
あらすじ
魚屋の勝五郎は、腕はいいが酒好きで仕事も休んでばかり。この日は女房に朝早く起こされ、嫌々芝の魚市場に仕入れに行く。
しかし、早過ぎて河岸が開いてない。仕方なく夜明けの浜辺で顔を洗い、煙管を吹かしていると、浜辺で革の財布を見つける。中には大金が入っており、自宅に帰って大酒を飲む。
翌日、勝五郎は女房に起こされる。仕事なんか行かない、昨夜の大金を出せと言う勝五郎に女房は、
「そんなもの知らない。昨夜はめでたいことがあったとかで仲間とどんちゃん騒ぎをして、そのまま寝てしまったじゃないの」と言う。
勝五郎は愕然として、こんな夢を見るようじゃおしまいだと身の上を考え直し、一念発起、断酒して死にもの狂いに働き始める。
もともと腕のいい魚屋だけにたちまち評判になり、三年後には借金もなく年を越せるようになる。
大晦日の晩、女房は例の大金を差し出す。三年前、拾った大金をくすねたことが露見すればお縄になると大金はお上に届け、勝五郎には「夢だった」で押し切ったが、その大金が落とし主不明で戻ってきたと言う。
嘘をついたことを詫びる女房に勝五郎は感謝し、女房は久しぶりに酒でもと勧める。勝五郎はいったん杯を口元に運ぶが、杯を置く。
「よそう。また夢になる」
「芝浜」の構成のうまさ
起承転それぞれの中に起承転結があり、起では金がないという問題が、承では怠け者という問題が、転では良心の呵責という問題が解決。結では勝五郎は本当に酒までやめてすべての問顆が解決する。
落語の種類
落語は、大きく分けると3つの種類があります。
まずは人情話。夫婦愛、親子の情、人と人の情を扱います。
それから怪談。有名なのは、ロウソクの火が消えたら死ぬと言われる「死神」でしょうか。
もちろん、大多数を占めるのは滑稽話です。
滑稽話は面白い話ですが、その内容はさまざまです。
バカ話
「廻り猫」や「一目上がり」のように話自体が面白いもの。
慌て者
「粗忽長屋」など、慌て者、ドジが出てくる話。
とんち話
和尚と小僧などがいて、小僧が和尚をやりこめたり。
荒唐無稽
「あたま山」など、ありえないけどなんだか面白いSF的な話。
深い笑い話
千両で買ったみかんを千両の価値があると思って番頭が持ち逃げする「千両みかん」など、真理を感じる深い話。
艶話
エッチな話、遊郭の話など。もちろん、ミックス型もたくさんあります。
※本記事は「公募ガイド2017年6月号」の記事を再掲載したものです。