第45回 高橋源一郎「小説でもどうぞ」 課題「隣人」結果と講評


1951年、広島県生まれ。81年『さようなら、ギャングたち』でデビュー。
小説、翻訳、評論など著書多数。日本のポストモダン文学を代表する作家。
■第48回 [ 孤独 ]
7/1~7/31(23:59)
■第49回 [ 練習 ]
8/1~8/31(23:59)
※第48回から応募はWEB限定になりました。

隣人

テーマは「隣人」、なので、というべきか「引っ越してきた隣人」を巡る作品が多かった。誰もが考えそうな状況より、まず意外な設定を考えてみるのが面白いのでは。それを小説に仕上げるのも大変なんですけれどね。


最優秀作は吉川歩さんの「社会の窓」。「夜八時半の満員電車」で「いつものように、おれは隣の客の手元をのぞきこんだ」。「おれ」の「愉しみ」は「隣の客」のスマホを覗くこと。SNSの社会では誰もが「隣人」だ。そして「おれ」は「隣人」たちを覗く。それを「社会の窓」と呼んでいるのだ。今日覗いているのは「若い男」。妻とやり取りしているらしい。なんだつまらん。そう思っていると、男はスマホで奇妙なものをネットショッピングし始める。それがすべての始まりだった……はっきり言って怖いです!


佐海美佳さんの「お節介な隣人に気を許すな」は、なかなか凝ったお話だ。「ピンポーン」。今日引っ越したばかりの「俺」のところに「隣」のおばさんが挨拶に。それも一度ではない。何度も来るのだ。いろんな用事にかこつけて。しかもいろいろうるさく訊いてくるのである。ああいやだ話好きのおばさんは。だいたい「俺」は「勤め先の銀行の、貸し金庫に入っていた取引先の金」を持って逃げようとしているところなのだ。それどころじゃない。えっ? 今度はお裾分け? 腹減ってるしもらっとくか……こういうオチとは!

板野賢太郎さんの「腹痛」。これは引っ越しも隣室も関係ありません。給食のカレーが美味しくてたくさん食べたら、お腹が痛くなった「俺」。トイレに飛びこみ、ああセーフ。良かった……と思った瞬間「血の気が引く音が」。なんと「女子トイレに入ってしまったのだ」。ヤバすぎる。しかも隣の個室から「悔しい」と呟く女子の声が。なんと、ずっと好きだった「佐伯さん」ではないか。これぞ絶体絶命。どうすればいいのか。意を決して「佐伯さん」の悩みを聞こうとする「俺」。衝撃の結末です。「隣人」に注意!

一ノ本奈生さんの「お裾分けが河童っぽい」は「隣人の河野さんはおそらく河童である」と始まる。ワクワクするね。「僕」がそう思うのは、お裾分けがほとんどキュウリであること。晴れの日には日傘をさすこと。雨の日には嬉しそうなこと。ますます疑わしい。そんなある日、隣室で悲鳴が。慌てて隣の家へ。ドアノブに鍵はかかっていない。中へ入る。倒れている河野さん。傍らには「割れた皿の欠片」が……河童の皿だ! そこから先は読んでのお楽しみ。オチが可愛くて素敵です。えっ? ほんとに河童? さて……。

昴機さんの「赤い星の八つ横」。タイトルがちょっと変。でも読んでいくとわかるから大丈夫。引っ越してきたのは主人公の「わたし」。その挨拶に「お隣さん」にタオルを配る。するといきなり「受け取ったタオルを頭に巻き始める」。「私」が「大学院生です」と名乗ると、隣人は「自分は宇宙人です。どうぞよろしく」と言うのである。え? そんなある日、ストレス解消のためにバイクを飛ばしていると、山の中で故障。すると突然、隣人が出現するのだ。隣人の正体は? タイトルとの関係は? なんだか楽しい小説でした。

渋川九里さんの「隣のうわさ」は、ストレートな「引っ越してきた隣人」のお話。主人公は「結婚して三カ月」の「さやか」。いつも「七、八十代の女性三人」の噂話に立ち会わされる。今回は「八階に引っ越してきた人」。三人の一人が「うちの孫」から聞いた話として「ヤバい人」らしいと打ち明ける。どんな人? 「女一人」しかも「インフルエンザ」。えええっ! 「さやか」も用心のためにマスクをする。その女性もサングラスにマスク。なぜ? インフルエンザだから? いえ、実は……意外な展開にびっくり!

青の佑美さんの「おかゆ」のテーマはもちろん「おかゆ」。風邪で会社を休んでいる「りこ」は「うすい壁から聞こえる隣人たちの話し声」にうんざりしている。新卒採用されて入った会社ではうまく行かない。実家や親友に電話をしても態度は冷たい。なんて孤独。しかも病気。すると突然「リンジンデス」と若い男の声が。「東南アジア系」らしい人が「セキ」を心配して来てくれたのだ。そして「おかゆ」も一緒に。一口食べる。なんか変。食べたことのない味。でも食べているうちにだんだん心が安らいでくる。いいお話です。

河音直歩さんの「おせんべい」は、引っ越しの挨拶に「おせんべい」を持って来た隣人の「おばあちゃん」のお話。主人公の小学四年生「香菜」は、よく「おばあちゃん」に話しかけられる。「おばあちゃん」は独り言が多く、母親は「ぼけてるのよ」と言う。新年にはお年玉で一万円もくれた。両親は「ぼけてる」からだと、おしゃべりもやめるよう言うのである。春先、一人の女性が訪ねてきて「母」が施設に入ったと報告し、最初の挨拶の時と同じような「おせんべい」をくれるのだ。いい話だが、ちょっと淡すぎるかも。
■第48回 [ 孤独 ]
このテーマはまだでしたね。誰もが経験すること。ひとりぼっち。どの年代でも、どんな場所でも、いや、もしかしたら、「孤独」がふつうで、そうではない時の方が珍しいのかも。作品を楽しみに待っています。
■第49回 [ 練習 ]なにかを身につけるためには、ただひたすら「練習」あるのみ。ピアニストはピアノを、画家は絵筆を持って、野球選手はバッティングケージに入って「練習」します。みなさんは何か「練習」してますか?
※お知らせ&ご注意 第48回から郵送応募がなくなり、WEB限定とさせていただいています。郵送で応募されている皆様には申しわけありませんが、ご理解、ご了承のほど何卒お願い申し上げます。■第48回 [ 孤独 ]
7/1~7/31(23:59)
■第49回 [ 練習 ]
8/1~8/31(23:59)
2000字程度
(タイトル、作者名を含み1800字~2200字)。
応募点数1人3編以内(同工異曲は不可)。
応募の際にはメールアドレスを記入してください。
所定の応募フォームから応募。
作品の1行目にタイトル、2行目に作者名(本名またはペンネーム)、3行目を開けて、4行目から本文を記入。
未記入の場合は「タイトルなし」「名前なし」で選考します。
ペンネーム希望の場合は原稿にはペンネームのみを記入してください。
原稿に本名が記載してある場合は、応募データにペンネームが書かれてあっても、本名で発表される場合があります。
未発表オリジナル作品に限る。
AIを使用した作品は不可。
入選作品の著作権は公募ガイド社に帰属。
入選作品は趣旨を変えない範囲で加筆修正することがあります。
応募者には弊社から公募やイベントに関する情報をお知らせする場合があります。
第48回 2025/10/1、Koubo上
第49回 2025/11/1、Koubo上
最優秀賞1編=Amazonギフト券1万円分
佳作7編=記念品
選外佳作=WEB掲載
※発表月の翌月初旬頃に記念品を発送いたします。
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