7.4更新 VOL.28 星新一ショートショート・コンテスト、ほか 文芸公募百年史


今回は、昭和52年~55年にかけて公募された文学賞を紹介する。経済的に安定し、公募の件数も増えてくる一方で、短命に終わる文学賞も少なくない。
なかには、この賞金で、この選考委員で、なぜうまくいかなかったのかと思うものもあるが、人生同様、思ったようにはいかないのが公募イベントだ。
途中から公募に! 野性時代新人文学賞
事前に文学賞をリストアップしておいたのだが、なぜか漏れてしまった文学賞があった。それが野性時代新人文学賞だ。おぼろげながら芥川賞受賞作、池田満寿夫の『エーゲ海に捧ぐ』は野性時代新人文学賞受賞作だったという記憶があり、調べてみたところやはりそうで、第3回受賞作が池田満寿夫『エーゲ海に捧ぐ』、その前の第2回が片岡義男『スローなブギにしてくれ』だった。
ただ、勘違いしていたのは、この頃、野性時代新人文学賞は公募ではなかった(だからリストから漏れてしまった)。野性時代新人文学賞は昭和49年に創設された、当初は「野性時代」に掲載された新人が対象だった。一般公募になったのは昭和58年の第10回からで、しかし、リニューアルしたのも束の間、4年後の第13回(昭和61年)には募集を終了している。
4回で終了か、短命だったなあ。有為な新人も発掘できず、話題作もなかったんだろうなと過去の記録を見たところ、第10回受賞者は草間彌生「クリストファー男娼窟」となっていた。前衛芸術家で水玉模様の草間彌生と同姓同名? 調べてみたらなんと本人だった。しかもゲイ小説。選考委員には絶賛されたみたいだが、昭和58年(1983年)の段階でゲイ小説は早すぎたかなあ。前衛すぎて世の中がついていけなかったのかもしれない。
また、最終回となってしまった第16回のときは、王出富須雄「白の家族」が受賞しており、この人は天童荒太だそうだ。のちにプロ・アマ不問のミステリーの賞に応募しようと思ったとき、新人賞受賞歴のある自分が落選したらみっともないと思い、天童荒太名義に変えたそうだ。みっともないということはないと思うが、天童荒太のほうがずっといいですね!
これだけ新人発掘ができていたらもっと続けてもよかったと思うが、いろいろ大人の事情があったのでしょう。しかし、その後、2005年に野性時代青春文学賞(第4回で終了)、2010年には野性時代フロンティア文学を創設し、これが2020年から小説野性時代新人賞と改称されて現在も継続中だから、伝統は受け継がれたわけだ。
ちなみに小説野性時代新人賞は「新人賞」とつくが、応募資格はプロ・アマ不問だ。
短命に終わった日経懸賞経済小説と作品賞
ここでは、創設されたのはいいが短命に終わった文学賞をまとめてみよう。
まずは昭和52年に創設された日経懸賞経済小説。発表が昭和54年だから募集期間はたっぷり1年半、賞金は300万円、選考委員は江藤淳、尾崎
昭和54年には、$1000賞という文学賞が創設されている。なんだろう、この賞は。第1回をもって終了しているが、主催のオフィス$1000は出版社か何か? 景気がいいと有象無象が出てくるね。そう言えば、ダイヤ情報出版という会社もあったな(笑)。
昭和55年には作品賞が創設されている。母体となっているのは文芸誌「作品」で、版元は作品社。これは大正13年に金星社が創刊させる「作品」とは別の雑誌だ。編集長は「文藝」にいた寺田博で、選考委員は阿部昭、飯島耕一、木下順二、小島信夫、佐多稲子、賞金は30万円だった。
しかし、「作品」の休刊により第1回で終了となった。創刊したものの7号で休刊とは。そんなはずじゃと思ったでしょう。ちなみに作品社は現存する硬派の版元ですね。
青年よ、公募を目指せ! ニッポン放送と学生援護会
ここでは、若い人をターゲットにした文学賞を二つ紹介しよう。
昭和54年に、ニッポン放送青春文芸賞が創設されている。ラジオを聴く若者の創作エネルギーを喚起し、若者文学のパイオニアとなる才能を発掘するために創設されたが、第1回で終了している。
選考委員は五木寛之(小説家)、市川森一(脚本家)、岡本おさみ(作詞家)、東陽一(映画監督)、原田美枝子(女優)とバラエティーに富み、賞金は50万円。30~50枚と取り組みやすい枚数だったが、深夜放送に投稿するようなノリではうまくいかなかったのかもしれない。
翌昭和55年には、学生援護会青年文芸賞が創設されている。学生援護会といっても耳なじみがないかもしれないが、「日刊アルバイトニュース」(現在の「an」)の版元だ。応募資格は不問だが、青年文芸賞とあるように「日刊アルバイトニュース」を読むような20歳前後の人が対象だっただろう。
賞金は破格と言っていい100万円で、選考委員は扇谷正造、赤塚不二夫、長部日出雄、倉橋由美子、田中光二……硬軟取り交ぜてと言うか。規定枚数は80枚以上で、B4判400字詰原稿用紙とある。学校作文かと言いたくなるが、昔は原稿用紙と言えば大判だったんだな。
伝説の星新一ショートショート・コンテスト
なんだか単発の文学賞ばかりだなと思っていたら、一つ歴史に残る小説コンテストがあった。それが昭和54年創設の星新一ショートショート・コンテストだ。母体となっているのは講談社の文庫雑誌「IN★POCKET」。選考委員はもちろん星新一で、規定枚数は400字詰原稿用紙1~10枚。1枚ってすごいな、逆に難しいよ。賞金は10万円で、毎年9月30日に締め切り、翌年3月に入選作が作品集(単行本)となった。
星新一が選考委員で、年1回の掌編募集だったら10編は余裕で書けるなあと思ったら、みんなそう思うのでしょう。第1回の応募総数は5433編だった。この賞の夢があるところは、入選作品が『ショートショートの広場』として講談社から発行されること。アマチュアにとって自分の作品が商業出版される(しかも大手版元)というのは夢中の夢だよね。小説を書いている人なら誰だって応募したくなる。しかも、1~10枚だから、アイデア次第ではいけそう!って思うよね。
星新一ショートショート・コンテストは昭和60年の第8回をもって終了するが、全応募総数はなんと3万3607編。1回平均4200編。中にはのちの著名人もいるだろうと調べてみたら、太田忠司、井上雅彦、斎藤肇が出身者だった。また、第2回のときに「花火」で最優秀作となった江坂遊は星新一がショートショートの後継者として名指しした作家で、この江坂遊の後継者が田丸雅智だ。田丸雅智さんは現在、坊っちゃん文学賞の選考委員長をしており、ショートショートの普及に尽力している。
なぜか活発、北海道の文学賞
最後に北海道に関わる文学賞を紹介しよう。
昭和55年に、朝日新聞北海道支社が「女性の小説募集」を創設している。これは朝日新聞北海道内版の婦人ページ「女性ぷろむなーど」創設を記念したもので、第10回までは投稿募集のようなタイトルだったが、第11回かららいらっく文学賞に改称している。応募資格は北海道在住の女性限定だが、北海道を題材にすれば道外からも応募可だった。現在の地方文芸も地元を題材にすれば県外からも応募可という文学賞が多いが、その走りだった。
北海道というのはよほど文学熱が熱いのか、らいらっく文学賞のほかにも、昭和49年創設の北海道文学賞(主催:月刊クォリティ編集部)があり、これは第38回(2013年)まで続いている。
昭和42年には北海道新聞文学賞が創設され、当初は同人誌など既発表作品が対象だったが、2001年の第35回から生原稿も受け付けるようになった。同賞には第35回のときに桜木紫乃が候補作に選ばれており、第37回は朝倉かすみ、第41回はまさきとしか、第46回は河﨑秋子が受賞している。
北海道新聞文学賞は道内在住者が対象だが、第59回の締切は2025年8月20日。規定枚数は400字詰原稿用紙50~150枚。応募資格に該当する人は賞金100万円目指してがんばろう。
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