詩を書こう⑤:自分のために書こう 心の処方箋としての詩


詩を書くと気持ちがいい。閉じ込められていた心、もやもやした感情が解き放たれる。誰のためでもない。自分のために詩を書こう!
書くと楽しい! 気持ちいい! それでいい!
効能1:書くことは気持ちいい
90歳を過ぎた柴田トヨさんに息子さんが詩作を勧めたのは、腰を痛め、趣味の日本舞踊が踊れなくなったトヨさんを慰めるためだった。
おそらく息子さんは、長いものは大変だが詩なら手軽であり、頭の体操にもなる、何より気がまぎれるし、気持ちの整理にもなるという効果を期待して勧めたのではないか。
しかも、書くことはそれ自体が楽しい。自分の気持ちにぴったり合う言葉を探せたときは心が晴れ、言葉によって自分の感情をより理解する。しかも、長く心に響き、残り続ける。
そのうえ、入選もした。
「産経新聞の『朝の詩』に入選したときの感動が忘れられず、今にいたっています。」
(柴田トヨ「くじけないで」)
このことで柴田トヨさんは詩作に弾みがつき、ますますのめりこんでいく。公募ファンはみな柴田トヨさんに近い位置にいる。公募をやらない一般の人よ
り、はるかに詩人になれる可能性がある。そのうえ、自分のためになることがたくさんある。
効能2:癒される
詩は自分で書いて自分の心が癒やされるという面もあるが、人が書いた詩で癒やされることもある。とくに子どもの詩は癒やされる。
「おかあさんのいないこどもは/ どうやって/おふとんあたためるの」
(藤田翠『こどもの詩』)
『こどもの詩』に収録されている「さむいよる」と題された詩。
なんだか哀しくて、そしておかしい。子どもってかわいいなあと思って癒やされる。
子どもに痣やされない人でも、共感して痣やされる分野は必ずある。恋の苦しさを書いた詩、生きることを苦悩する詩、ひとりぼっちの詩、災害に遭ったことを悼んだ詩。境遇が似ているほど共感、共鳴する。
効能3:心が解放される
詩を書くことは、過去にあった出来事、経験した感情を思い出すことに近い。そのとき、過去の解釈のし直しが行われる。
九十歳を過ぎて出会った詩作で、気づいたことがあります。どんなに辛いこと、悲しいことがあっても(中略) 、多くの縁ある方々の愛情に支えられて、今の自分があるんだということです。
(柴田トヨ『くじけないで』)
詩を書くことで、縛られていた過去から解放されることがある。それも詩の効用。
詩を書いたら応募しよう
自分のためだけに書く詩もいいが、書いたからには読んでもらいたい、自分の実力を知りたいという人は、公募や投稿に挑戦してみよう!
カテゴリーエラーをなくそう!
高橋源一郎『さようなら、ギャングたち』の中に、詩を書いた主人公がこう言われる場面がある。
「この字を書いてある所だけが詩なのかい?」
何も書かれていない余白が詩であるはずもなく、これはかなり人を食ったセリフだが、この場面は前衛芸術を象徴している。
この小説が書かれたのは80年代初頭だが、この頃には現代詩はすでに難解になっており、「わけがわからないけど、なんだか格好いい」という、主に若い世代が憧れる最先端の芸術だった。
当然、一般庶民からは遠い存在だったが、一方で、平易な言葉で 書かれた、わかりやすい詩もあった。それがライトバース(ライトバースは外国から来た娯楽的で軽妙な詩だが、ここでは一般の人にも理解できる大衆的な詩のことをそう呼ぶことにする) 。
小説賞に応募する場合もそうだが、カテゴリーエラーは致命的になる。たとえば、純文学の賞にライトノベルで応募したり、ミステリーの賞に謎も筋もない心境小説で応募してもまず受賞しない。
詩も同じで、まずは前衛芸術としての現代詩なのか、それとも感動や共感を与をる大衆的な詩なのかは見極めたほうがいい。
また、詩の公募の中にはあとでメロディーをつけるものもある。
童謡がそうで、この場合は同じメロディーのところは同じぐらいの音数にしないと歌えない。ある程度はメロディーがつくことを意識して詩作しよう。
詩の応募先のいろいろ
文学的な詩
タイトルに「○○賞」のように詩人の名前を冠している賞が多い。
ただし、島崎藤村と伊東静雄、白鳥省吾、永瀬清子では作風が全然違うから、求められるものも違ってくるので注意。
現代詩
文学的であり、かつ、前衛芸術としての現代詩の募集。詩の専門誌の投稿欄がそう。難解であることは条件ではないが、ストレートな心のつぶやきのような詩はまず採用されない。
大衆的な詩
「愛の詩」「ふるさとの詩」「おかあさんの詩」「こどもの詩」といったタイトルのものが多い。一部の詩人志望の人向けではなく、一般大衆が対象。採用作は感動、共感系が多い。
既刊対象
詩集として刊行されたものが対象。自治体がからんだ賞が多い。
多くは自費出版も対象となるが、ハードルはかなり高く、まったく無名の自費出版詩集が受賞した例は少ない。
WEBで詩を投稿したい人は?
現代詩にも投稿サイトがある。比較的よく知られているのは現代詩フォーラム(http://po-m.com/forum/) と文学極道(http://bungoku.jp/) 。詩を発表したい人、読んでもらいたい人は検索してみよう。
また、日本現代詩人会(https://www.japan-poets-association.com/) では、WEB で詩の投稿を募集している。30字×60行以内。1期(3か月) に1人3編までの応募可で、入選作はWEBで発表される。
※本記事は「公募ガイド2018年7月号」の記事を再掲載したものです。