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第28回「小説でもどうぞ」選外佳作 二度とマッチョは目指しません 住吉徒歩

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作文・エッセイ
小説でもどうぞ
結果発表
第28回結果発表
課 題

誓い

※応募数272編
選外佳作 

二度とマッチョは目指しません 
住吉徒歩

『二度とマッチョは目指しません』
 とうとう夫に誓約書を書かせた。
 隠し持っている白い粉も取り上げた。
 少ない小遣いでよく大量のプロテインを買えたものだ。そこだけは感心する。
 私は常々、世の中にはムダなものが二つあると考えている。右から左へ耳の穴を抜けるだけの英会話レッスンと、上から下へ体の中を流れるだけのプロテインだ。
 ババっちい表現はしたくなかったが、もっと汚いのは夫の根性だと断言できる。
「これで全部じゃないでしょ?」
 問いただすと、その後も出るわ出るわ。
 茶色い粉はチョコ味、黄色い粉はバナナ味だって? プロテインの味を変えてもどうせ筋肉はつかないだろ! 小遣いを浪費しやがって。私の怒りは頂点に達した。
「結婚してからずっとガリガリだったじゃん! 今さら誰にモテたいの?」
 ついキツイ言葉を口にしてしまう。
 キミを守りたいから――。そんなうれしいことを言ってくれるような人ではない。ただ筋肉をその身にまとうことだけに夢中になっていたに違いない。
「結果、何が残ったと思う?」
 私からのイジワルなクイズに、夫は黙って答えない。
「赤字だよッ!」
 私は夫を家から追い出し、すぐにジムに行って退会手続きをしてくるように命じた。
 夫がマッチョを目指したこの一年間、残ったのは本当に家計簿の赤字だけだった。ジム代、プロテイン代、自宅用ダンベル代、教本DVD代、マンツーマンレッスン代……ズブズブの底なし沼にハマった感覚。
「で、いつになったら筋肉はつくの?」
 待った私も悪かった。
 この一年で、夫の代わりに私がずいぶん逞しくなった。そこそこ遠いスーパーにでも、激安と聞けば自転車で駆けつけられるようになったのだ。もはやスマホは携帯電話ではない。タイムセール情報を検索するための道具だ。急な坂道だって、電動アシストなしの愛車でスイスイと走れる。
「なのに、ぜんぜん痩せないのはどうしてだろうねぇ?」
 この自虐ネタで笑ってくれる近所のママ友は、残念ながらもういない。
 夫の実家で親戚のオジさんから言われる「さては、ダンナの分まで食ってるな?」というしびれるジョークにも慣れた。
「ねえ。パパより私がマッチョになった方が早かった気がしない?」
(了)