超かんたん文章術2:抽象構成作文法


連想法で素材を集める
ここでは、松永暢史先生が実際に作文の指導をした例を取り上げます。
作文を書いてくれたのは、本田賢人くん(仮名/小学六年生)です。
松永先生は、作文を書かせる前に聞き取りをします。聞いて尋ねて、なるべくたくさんの素材を集めるわけです。
図1は、聞き取りをした際、松永先生がメモをしたものです。
このメモは、今回の特集を組むにあたってお借りしてきたものです。編集部は現場に立ち合っていませんが、メモから逆算すると、こんなやりとりがあったものと推測できます。
松永先生「賢人くんは兄弟はいるの?」
賢人くん「うん、姉と妹、それから妹の下に弟が二人います」
松永先生「賑やかだろうねえ」
賢人くん「ていうか、ケンカばっかり」
松永先生「誰と誰がケンカするの?」
賢人くん「ぼくとエリカ」
松永先生「エリカというのは?」
賢人くん「妹。三歳下なんだ」
松永先生「どんなケンカをするの?」
賢人くん「あいつ、チョー自己中心的なんだ。くだらないことでいきなりキレるし、すぐに手を出す」
松永先生「バトルだね」
賢人くん「髪の毛を引っぱったり、けったり、つねったり」
松永先生「学校でもそうなの?」
賢人くん「それが外では正反対なんだ。近所のオバサンにも評判がいい。まったくサギだよ」
ここでは先生が素材を引き出してくれていますが、一人で文章を書く場合は、一人二役になって話を転がしていけばいいでしょう。

あとは適当に並べるだけ
図2は、賢人くん自身が書いたメモです。まず、まん中に、テーマを書きます。
そのあと、テーマから連想されることをまわりに書いていきます。
メモをしながら、同じような内容のものをグループ化したり、グループ化したものに見出しをつけてもいいです。
あとは、これを適当に並べてつなぎ合わせます。話の順番に決まりはありません。皆さんがいいと思ったものはすべて正解です。
ここであまり堅苦しく考えると、気持ちが萎縮します。おもしろければなんでもいい、というくらい気楽に順番を考えましょう。
うまくつながらない場合は、言いまわしを変えたり、間に何か一文を足したりします。あるいは、どうにも嵌まらなければ、捨ててしまえばいい。
文章を構成するのは、簡単ですね。
ただ、うまく終われない(終わった感がない)ということはよくあります。
このようなときのために、まん中に書いたテーマの下に、「結局、何が言いたいのか」をメモしておきましょう。最後にそれを書けば、あら不思議、話はちゃんと終われます。
では、実際に賢人くんがどのようにまとめたか、下記の作文を読んでみてください。

ぼくの妹
本田賢人
ぼくは五人兄弟で、姉と妹が一人ずつ、弟は二人います。弟のことはともかくとして、姉は置いてあるお菓子を片っぱしから喰い荒らすブタの生まれかわりのような女です。しかし、この兄弟の中で一番恐ろしいのは三歳年下の妹のエリカです。
エリカは物事をすべて自分でやらないと気がすまないチョー自己中心的で猛獣のような女です。エリカはくだらないことでいきなりキレます。
そしてすぐに手が出ます。
エリカの得意技は、まず髪の毛を引っぱって、それがきかないとけり始め、それでもきかないと、今度はつめを立ててツネッてきます。ぼくがこれにたちむかうと、まるで狂犬みたいにうなりながら、ものすごい顔で倍の力でツネッてきます。
この前、ぼくがピアノを弾こうとすると、いきなりエリカが走ってきてピアノのイスにすわって、「私が最初にやる」と言ってじゃまをしてきました。人のじゃまはエリカの特技なので、ぼくが何とか引きずり降ろすと、狂犬化して飛びかかってきました。ぼくがお腹をけって防戦すると、「このクゾジジイ! 死ね、メガネザル!」と言って台所から包丁を出していかくしてきます。「寝ている間にすべてのカードを捨ててやるぞ!」
簡単に言うと、意地が悪いのである。おばあちゃんのコンピューターでゲームのサイトを開いたのが自分なのに、それをぼくのせいにしてお母さんに言いつける。いきなり「こっちに来て」と言うので近寄ると、ぼくにスカートをはかせようとする。ぼくが高いところに登って逃げていると、下から枕を投げてぼくを落とそうとする。
妹はこわい。いつも何かをたくらんでいるような気がする。妹は気が強い。自分の考えを押し通す。人の意見を絶対聞かない。
しかし、実はもっとも恐ろしいのは、外では正反対なことである。妹は弱い子にはやさしく、クラスではリーダーシップをとる。成績も良い。
近所のオバサンにも評判がいい。これはサギである。ぼくはこのことが一番恐ろしいと思っている。
しかし、もっと恐ろしいことは、妹がいないと退屈なことである。
※本記事は「公募ガイド2012年3月号」の記事を再掲載したものです。