公募/コンテスト/コンペ情報なら「Koubo」

作家になる技術4:環境を整備、スケジュールを管理すべし

タグ
小説・シナリオ
小説
バックナンバー

書く環境は整っているか

小説を書くという作業は、登山にもたとえられる長い戦いです。専業作家でも長編なら一年がかりになったりしますし、いわんやアマチュアにおいてをや。だから必要なのは根性だ、忍耐だ、信念だと言ってもいいのですが、その前に、以下の三つを実行してください。

 

1.書斎を持つ
2.パソコンを買う
3.照明と椅子を揃える

 

作家の中には、台所で書いた、廊下で書いた、押し入れが書斎といった武勇伝を言う人もいますが、彼らはそれでも書けた例外と考えてください。劣悪な環境では普通は書く気も失せます。
1の書斎ですが、必ずしも部屋でなくてかまいません。独り暮らしでもなければ個室はないでしょうから、居間や寝室の一角をパーテーションで仕切る程度でかまいません。要は家族の団欒や生活音から自分を隔離できればOKです。
2のパソコンはプロ作家には必需品です。手書きのよさ、ワープロ原稿の弊害もありますが、プロになりたいなら道具には投資を惜しまないこと。
インターネットは便利ですが、できれば書斎のパソコンにはネットは接続しないようにします。サイトを覗いたり、ゲームをしてしまったりするからです。
長く書くためには、3の照明と椅子はとても重要です。光量の足らないライトでは目が疲れますし、逆に強すぎれば目が痛くなります。ライトは部屋全体と手元を照らす二つを用意します。
椅子は長時間座っていても疲れない事務用のものを入手します。見た目はよくても疲れやすいもの、そもそもが椅子ではない台座のようなものではだめです。
書くとき以外でも座りたくなるようなものを選んでください。

仕事を持っている人は朝書け

作家が原稿を書くときの一般的なイメージは、「あるとき、天啓のようにストーリーが降りてきて、三日三晩、徹夜して一気に書いてしまう」という感じだと思いますが、これは映画や漫画の中でそう描かれることが多いからで、プロほど毎日少しずつ規則的に書きます。量産している作家でも平均すれば一日に十枚も書かないでしょう。
勝目梓『小説家』には、「毎日五時に起きて、仕事に出ていく前の二時間余りを小説の習作に当てる、ということを始めた。それを日課としてつづけた」と書かれていますが、仕事を持っている人はこの方法がベストです。夜は仕事疲れもあって意外と集中しにくいものです。
朝の執筆が終わったら出勤します。通勤の途中は読書か、朝書いた小説の続きを考えます。昼食は五分で済ませ、残りの五十五分でまた執筆。このとき、朝の通勤時や勤務中にストーリーを練っておくと、すぐに続きに取りかかれます。原稿をデータで持つかネット上に保存しておけば、外出先の空き時間にパソコンやスマホで続きが書けます。

芸術家は職業なのか

芸術家というのは肩書きではありますが、職業ではありません。なかには、芸術のために制作した作品が売れて、その収益で生活が成り立っている人もいますが、それはレアなケースであって、大半の芸術家は、職業的収益源は別に持っているものです。
たとえば画家。大半の人は絵では食えませんので、絵画教室を開いたり、公務員や自営業者であったりして、なんらかの副業(収入的にはこちらが本業に近いのですが)を持っています。
小説家も同じです。年に一回、単行本を出版したとして、一冊1500円、初版発行部数が4000部、その一割を印税としてもらうと60万円。
年収60万円では主婦のパート以下、これでは家族を養うどころか、自分一人食っていくこともできませんから、副業として講演、インタビュー、雑文の執筆、文章講座や小説講座の講師、文学賞の下読み、あるいは小説とは無関係の仕事に勤しまないといけません。
もちろん、単行本の前に雑誌に書いているなら原稿料が発生しますし、単行本の売れ行きが好調なら増刷もかかります。
さらに文庫になればまた印税が発生しますが、しかし、それでも年に二、三冊ペースで出版しないと職業的には苦しい。
よほどの売れっ子でない限り、時間的にも肉体的にも比較的楽な副業を持っていないとやっていけないかもしれません。

少しずつ書き、完結させる

帰宅後はまた執筆をしますが、書いてばかりだと読書をする時間がありませんので、夜は小説を読んだり、調べ物をしたりする時間に充ててもいいです。
文学賞の締切が近くなると一作品に集中してかかりっきりになることもあると思いますが、書いてばかりではだめ。幅広く読書をし、刺激を受け、触発され、発想を豊かにする。常に〝入れる〟ことをしないとすぐに枯れてしまいます。
テレビの娯楽番組は基本的には観ません。朝一からがんがん小説が書けるように十一時ぐらいには寝ます。
調子が出てきたからといって何時間もぶっ通しで書いてはだめです。徹夜でもしようものなら必ず反動がきて、しばらく書くのが面倒になる。そのまま書く習慣もなくなる。よくあるパターンです。
重要なのは、規則正しくやること。
五十分書いたら強制的に十分休憩のようにシステマティックにやる。そのほうが結果的には長続きします。
一度書き出したら、納得できる出来にはならないと分かっていても、必ずラストまで書き上げましょう。未完の名作を百書くより、完成した凡作を一つ書くほうが遥かに有意義です。
休日も朝から小説を書きます。たまには休もうとか、家族サービスもしなければとか、付き合いもあるからといった言い訳は不要です。なにしろ、天才でもなんでもない私たちが何がなんでもプロ作家になろうというのですから、何かは犠牲にしなければなりません。人付き合いも大切だし、親としての責任もあるし、昇進もしたいし、趣味の時間も欲しいし、そのうえでプロ作家にもなりたいというのは土台無理な話なのです。

〆切までの進行管理

日々のスケジュールの管理も大切ですが、それ以上に重要なのが賞に応募するまでの進行管理です。
ありがちなのが、締切の一週間ぐらい前までに書き上げ、そこから軽く素読みをして応募すればいいと甘く考えてしまうパターンです。
実はいったん書き上がってからが本当の山場です。ここから文章の推敲、テーマの推敲、構成の推敲など総仕上げをするわけですが、ここからが思いのほか時間を食うんですね。
前半が重いから大幅に削り、代わりに後半を書き足そう、ラストにご都合主義的なあと出しがあるからその前に伏線を加え、全体的に文章にスピード感を与えよう、途中で話が脇道に逸れ、それがテーマを分かりにくくしているから割愛しよう……などとチェックし、そのつど書き直し、そのつど頭から読み直しをしていると、長編なら一ヶ月くらいはあっというまです。
いったん書き上がったときはまだ五合目で、決して完成間近ではないという自覚を持ってください。

モチベーションを保つには

人は易きに流れるものです。特に大人になると、それまでは大っぴらには飲めなかったお酒が飲め、自分で稼ぐようになれば海外旅行、ギャンブル、レジャー、ゲーム、グルメ、合コンとやりたいことを自由にできるようになります。
そういえば、将来の夢は作家だったなあと思い、よしそれならばと机に向かうが、頭の中は真っ白。結局、その日はゲームをしてテレビを観て一杯飲んで寝る。
そのうち一年、二年……五年、六年。
三十代で結婚し、子どももできて、仕事も順調。いやなんか忘れてる気がするけど、そうだ、作家になるんだった、と思いながら週末は家族で出かけ、いつしか四十、五十、六十……。
そうならないようにするには、モチベーションを高める何か、夢を忘れさせない何かが必要です。
一番いいのは、身近に小説のライバルや友人がいること。小説のことをすっかり忘れてしまっているとき、「○○賞の二次までいったけど、まだまだだな」という報告があると、「やばい、私も書かないと」と思えそうですね。
作家の自伝や指南本、あるいは小説講座も刺激になります。講座は講義もいいですが、プロの作家と直接話ができるところがいいですし、そこで知り合った人と「○○という本は作家志望には必読」などと情報交換するのもいいですね。
宣伝っぽくて気が引けますが、公募ガイドには作家や受賞者が登場しますから、読んでいるだけ刺激になりますよね?
とにかく、身近なところにいつも自分が作家志望であったことを思い出させてくれる何かを持っていることがモチベーションを保つ秘訣です。

 

※本記事は「公募ガイド2012年12月号」の記事を再掲載したものです。