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作家を目指す君に1:自分が一つのジャンルになる(石田衣良さんインタビュー)

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ジャンルにはこだわらない

――石田先生は公募ガイドを見て新人賞に応募されたそうですが、どんな賞に出されましたか。

小説を書こうと思った当初は、自分が何を書けるかわからなかったので、公募ガイドを見て手近な小説の新人賞に丸をつけて書いていきました。日本ホラー小説大賞、朝日新人文学賞、小説現代新人賞、オール讀物推理小説新人賞、翌年の日本ファンタジーノベル大賞と次々に応募していった感じです。

――作品のジャンルがバラバラですね。賞の分析はされましたか。

特別な分析はしていません。向き不向きがあるだろうし、まずはあれこれ書いて応募してみた感じです。

――応募された賞のうち、3作品が最終選考に残ったそうですが、その理由はなんだと思われますか。

30年間の蓄積があったからじゃないでしょうか。7歳の頃からずっと小説家になりたいと思って、本を読んで、考えて、文章の練習もしていた。中学、高校時代は、1日に2~3冊ペースで読んでいましたから、気づかないうちに書きあげる力ができていたんだと思います。

――36歳で小説家になることを実行に移すわけですが、何かきっかけが?

「CREA」という雑誌の占いに、「これから2年間、期日を切って何か真剣に自分の中のものを出して仕事をするとよい」とあったので、これはもう小説を書くしかないなと。

――36歳でデビューということについてはどう思われますか。

小説は子どもの仕事ではないので、いろいろな経験をして、大人になってからデビューしたほうがいいですね。直木賞を獲ったとき、「君は何歳だ」と聞かれ、43歳と答えると、ちょうどいいと言われました。直木賞を受賞すると注文が殺到するので、あまり早く受賞すると引き出しがなくてつぶれてしまいます。

――オール讀物推理小説新人賞の受賞作「池袋ウエストゲートパーク」はミステリーですが、それまでに書かれた作品と比べて違いはありましたか。

それはないですね。ミステリーだからといって特別に思わないほうがいい。ジャンルにこだわるのはよくないと思います。何々系の作家になることを目指すのではなく、自分自身を一つのジャンルとして、いろんなものが書ける作家にならないとあとが大変です。デビューする前に自分の得意なものなんてわかるはずもないしね。

影響を与えた小説を遡る

――石田先生は選考委員もされていますが、受賞するポイントはありますか。

単純にいえば文章がうまい人です。文章が下手だと、いくら内容が面白くても最終選考まで残るのは難しい。そして、文章がうまくなりたいなら、本を読んでほしいですね。流行作家だけでなく、はるかに良い小説が山のようにありますから。最近の作家志望者は全然読んでいないですね。

――プロ作家を目指す人におすすめの読書方法はありますか。

時系列を遡って読んでほしいですね。
たとえば、東野圭吾さんのミステリーを読んでよかったら、その作品の元になっている作品、影響を与えた作品は何かと考え、それを読む。それを続けていって、最終的にエドガー・アラン・ポーまで行き着く。音楽でも最近はサビを視聴して1曲だけ買って終わりという人が多い。
でも、ロックが好きなら、そのバンドに影響を与えたバンド、そのまた前のバンドというふうに遡っていく。ブルースやジャズにもいく。そうやって聴く耳を高めるんです。小説家も同じです。読まない作家は世界も想像の幅も狭いから伸びない。デビューできても10年続かないと思います。

――プロになれる人となれない人の差はなんだと思われますか。

オリジナリティーですね。流行の作家に憧れて、その人を目指すようではダメ。同じ作家は二人は要らない、存在価値がないんです。最近の新人作家は品が良くておとなしい印象を受けますが、ドアを蹴破って入ってくる人じゃないと。厳しいようですが、受賞してデビューすればなんとかなるだろうという感覚では生き残れません。

――オリジナリティーを持つにはどうすればいいのでしょう。

自分に何があるかはやってみないとわかりませんが、真剣に取り組めばどんな世界も自分の世界になってしまうんです。恐れず何にでも挑戦してみて、選考委員に見極めてもらうくらいの気持ちでいいんじゃないかな。

――ほかにもプロを目指すうえで大切なことはありますか。

ロリン・マゼールという8歳でデビューした指揮者がいるんです。子どものうちはかわいい、天才だと注目されたのに、15歳になったら仕事がなくなってしまうんです。でも彼は、仕事がない間もフルブライト留学の資格をとってイタリアに行き、22歳のときに、あることをきっかけに復活します。彼は生き残れた理由について、「15歳で一度ドン底に落ちたからだ、もしデビューできても自分の才能をあまりシリアスにとらえないほうがいい」と言っています。そういうバランスも大事だと思いますね。

経験は全て素材となる

――デビュー前に小説を書くための練習はされていましたか。

小説家になるための特別な練習よりも、これはなぜこうなんだろうといつも考え続ける癖がついている人が作家に向いています。僕自身、学校に行かず留年していた時期がありました。外にも出かけず離人症みたいになったこともありました。
そのとき、膨大な日記を書いて自分と徹底的に向き合った。作家以前に、自分とは何か、社会とは何かを深く考えぬいた。そういう経験が作家になるうえでも大事だと思いますね。

――今までの経験や思索が作家としての土台になるのでしょうか。

それも含めて日常が大事です。デートしたり、食事をしたり、初恋の人に振られたり。普通のことを丁寧にやっていく。それが無駄にならないのが小説のいいところ。すべての経験が使えるんです。
四六時中何か面白いことがないかと考え、面白いことは記憶する。それがファイルになって、書きながらいろんな状況を瞬時にピックアップし、次々と世界を立ち上げていく。スイッチを切ると言う人もいますが、プロは24時間休みません。サメみたいに泳ぎながら眠っている。寝ている間もストーリーを考えています。だから締切間際になってまだストーリーが浮かんでいなくても、朝起きるとちゃんとできています。

――最後に作家志望者にメッセージをお願いします。

小説の世界は大きな家みたいなもので、次の世代が次々と生まれてこないとつぶれてしまう。力がある作家が集まると全体が豊かになるので、他の作家も恩恵を受ける。いい仕事をしている新人を先輩作家は応援します。だから怖がる必要はないんです。新人でも大家でもドストエフスキーの本でも、書店に並べば誰の本も同じ。普通の感覚で日々を丁寧に生き、物事をニュートラルな目で見て、何があっても淡々と書いていける人、そういうプロを目指してください。

 

石田衣良(いしだ・いら) 

広告制作会社に勤務したあと、33 歳でフリーランスのコピーライターとなる。97 年「池袋ウエストゲートパーク」で第36 回オール讀物推理小説新人賞受賞。03 年「4 TEEN」で第129 回直木賞受賞。06 年「眠れぬ真珠」で第13 回島清恋愛文学賞受賞。「夜の桃」「明日のマーチ」「6TEEN」など著書多数。

 

※本記事は「公募ガイド2013年2月号」の記事を再掲載したものです。