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2019年8月号特集SPECIAL INTERVIEW 真梨幸子さん

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公募ガイド8月号の特集「小説家を目指すなら、原稿用紙30枚をものにせよ!」では、小説家の真梨幸子さんにご登場いただきました。
誌面に入りきらなかったインタビューをご紹介します。

真梨先生インタビュー

――人物の名前の付け方で、気をつけていることはありますか。

真梨先生:過去の作品の登場人物とかぶらないようにはしています。でも、さすがにキャパがいっぱいで、実はどんどんダブってきてはいます(笑)。それと以前、つけた名前が知人の旦那さんと同じだったことがあります。ただの偶然だったのですが、殺人犯だったものですから、以降はあまり奇抜な名前はつけないようにしています。ありふれた名前なら言いわけがききますから。

――長編でもプロットを作らないのはどうしてですか。

真梨先生:トリガーという意味では物語のアイデアはメモしていて、また、こう始まって、こんな展開になって、こんなふうに終わるという構想は、ぼやっとですが、頭にはあるんです。ですが、それをプロットに落とし込んでも、そのとおりになったことがないので、だから最初から書かないんです。

――小説がうまくなる方法はありますか。

真梨先生:とにかくたくさん書くこと、妄想すること、楽しむことだと思います。今、私は「闇営業」について調べまくっていて、「闇営業って何? これを小説にしたら面白いんじゃない?」と思っています。 闇営業に限らず、実際に起きた事件について「これ、どうなってるの?」と思う人は多いと思うんです。それを妄想で膨らませて、「この事件の真相はこうだ」と書く。自分が興味ある事件だったら、すごく楽しいと思うんですよ。おすすめの方法です。

インタビューを終えて(編集後記)

自分には不向きだった社会派ミステリーに自分を隠して応募していた

「やりたいこと」と「やれること」は違うと言いますが、「やれること」は自分にとっては当たり前すぎて、なかなか見えないものですね。やはり、目標や憧れのほうばかり見てしまいます。

真梨幸子さんも、ミステリーの作家を目指し、「ミステリーと言えば江戸川乱歩賞でしょう」とばかりにまっしぐらだったそうです。
江戸川乱歩賞。そう、社会派ミステリーの文学賞です。
真梨さんももちろん、このことは知っていて、無理して社会派を書いていたそうです。

 

ところで、江戸川乱歩賞は、なぜ社会派ミステリーなんですかね。
江戸川乱歩自体は社会派というわけでもなく、ちょっとエロが入っていたり多分にグロが入っていたり、風変わりな傑作をたくさん書いていますよね。
まあ、それを言ったら、芥川賞も芥川龍之介の作風とはだいぶ違いますし、冠になった作家の作風とイコールである必要もないのですが。

 

真梨さんがなぜ江戸川乱歩賞からメフィスト賞にシフトしたかは公募ガイドの特集の中に詳しく書いてありますが、あることがきっかけで、真梨さんはメフィスト賞に応募しました。
メフィスト賞は、どこか異端の作風のものが多く受賞しているということで、真梨さんも自分の中のエロとグロを爆発させて書きました。

 

それが受賞作の『孤虫症』です。
受賞後、真梨さんは担当編集になった方に、
「真梨さんは江戸川乱歩賞じゃないよ」というようなことを言われたそうです。
でも、わからないですよね。憧れもありますし、社会派が向いてないなんて思いたくもないでしょうし。

書いているときは、役者になりきり、書き終わったら、今度は演出家の立場で

真梨さんは、なぜイヤミスの書き手になったのでしょうか。
本人はイヤミスを書いている自覚はないそうですが、イヤミス以前に、テレビのワイドショー的な、どろどろしたスキャンダルが好きだったようです。

 

考えてみると、人間ってそういうの、大好きですね。とくに女性はお好きなようです。
実際に身近な人が殺されたら大変ですが、そこは小説だから現実からは遠い世界です。
自分には危害が及ばない世界で、誰かが殺されたり悲惨な目に遭ったりするのは、読んでいてドキドキしますね。

 

社会派ミステリーの場合、小説とはいえ、かなり現実的に描かれます。だからこそ、弁護士や医師など、専門家が書くケースが多いのですよね。
そういう意味では、真梨さんは逆かもしれません。人が殺されるのに、どこかユーモアがあって、どこか現実ではないような空想性があります。

 

真梨さんは、プロットというものを全く作らないそうです。今作には「ミツコ調査事務所」という興信所が出てきますが、なかば無意識のうちにそう書いてしまい、「ミツコだから女性だよね」「調査事務所ってことは探偵事務所か」のように思いながら書いていったそうです。自動筆記みたいですね。
普通の人がそんなふうに場当たり的に書いていったら、たいがいは破綻してしましますが、真梨さんの場合は大丈夫なんですね。それを才能と言ってしまえば話は早いですが、秘訣は真梨さんが映画の勉強をしていたことにあるようです。
書いているときは、役者になりきって、ほとんど即興で演じていくわけですが、書き終わったら、今度は演出家の立場で書き直していくんだそうです。
いわゆる「鳥の目と虫の目」ですね。これは創作には必須ですね。

 

真梨 幸子(作家) まり・ゆきこ

1964年宮崎県生まれ。2005年、『孤虫症』で第32回メフィスト賞を受賞しデビュー。11年に『殺人鬼フジコの衝動』がベストセラーに。『向こう側の、ヨーコ』『ツキマトウ』など著書多数。