第10回W選考委員版「小説でもどうぞ」選外佳作 連続殺人犯の言い分 ササキカズト
第10回結果発表
課 題
さだめ
※応募数276編
選外佳作
連続殺人犯の言い分 ササキカズト
連続殺人犯の言い分 ササキカズト
ついにシッポをつかんだ。俺の目の前に今、連続殺人事件の犯人がいる。
時間は深夜二時。真っ暗な河川敷に止められた一台の乗用車から降りてきた男。助手席には女が睡眠薬で眠らされている。
「手を上げろ!」
俺は、男から五メートルほどの距離に立ち、銃で狙いを定めた。俺の持つライトの光に、男は眩しそうに俺のほうを見た。
「誰? 警察?」
この三年のあいだに、県内で六人の若い女が殺された。いずれも遺体は河原で発見された。両手を胸の上で組み、仰向けで寝かされた遺体には花が添えられていた。周りを囲うように石が並べられ、儀式的な異常性を感じさせるものだった。犯行はいずれも、睡眠薬で眠らせた女を車で河原へ運び、首を絞めて殺害するという手口だった。
「なんでわかった?」
男は動じることもなく、にやけながら俺を見ている。俺は男に言った。
「ひたすら防犯カメラの映像を見るのが俺のやり方だ。俺は、殺しをやった奴が直観でわかる。別にお前の事件を追っていたわけじゃない。片っ端から人殺しを捕まえていたら、たまたまお前が引っかかっただけだ」
「素晴らしい特技だな、刑事さん」
「お前が殺人犯だってことは、俺にはわかっていた。ずっと張り込んでいて、ようやくシッポをつかんだのさ。もしもお前が室内で殺す手口だったら、女を助けられなかったかもしれない。ありがたいことだ」
「刑事さん、俺を殺すのかい?」
「何?」
「人の味を知ってしまった熊は、その味を忘れられずまた人を襲う」
「何の話だ」
「人喰い熊は、最後は人に殺される運命だ。連続殺人もそうだ。殺人の味を知ってしまい、人を殺すことをやめられない奴は、いつか捕まって死刑になる。人を殺す奴は、結局は人に殺されるんだ。そもそも人っていうのは、相手が熊だろうが殺人鬼だろうが〈人を殺す奴〉を殺す。人を殺す奴は、人に殺されるんだ。人っていうのはそういうものだろ?」
「だから何だ」
「あんたはなぜ俺を捕まえる? 罪を償わせるためか? 社会の平和を守るためか? 俺は捕まれば間違いなく死刑だ。俺を捕まえるってことは、俺を殺すことなんだよ。人は人を殺す奴を殺す。刑事さん、あんたもそういう人なんだ。あんたも人を殺す人なんだよ」
男がゆっくりと俺に近づいてくる。
「憎しみ、復讐、戦争。人は、様々な理由で人を殺す。だが俺は愛のために殺すんだ。この女を愛しているからな。人は人を殺すのがさだめならば、愛のために殺すのが一番尊いとは思わないか?」
男はもう俺の一メートル先にいる。俺は男にこう言ってやった。
「人は人を殺すものだっていうのは同感だ。だがお前の、愛のために殺すっていうのは、いいように言っているだけだ。要は単なる殺し好きだ。お前は殺しが好きなだけなんだよ」
男は少し眉をひそめた。
「人喰い熊は確かに殺される。だが人っていうのは、そもそも娯楽で動物を殺すんだ。ハンティングがそうだろ。人殺しも同じさ。人は楽しみで人を殺すんだ」
男は黙って聞いている。俺は続けた。
「俺にとって犯人を追うっていうのは、ハンティングなんだ。張り込んでチャンスを狙い、殺る。俺はハンターなんだよ。俺がなぜ単独行動をしてると思う? 獲物をこの手で殺りたいからだ。単独行動は上から問題視されているが、俺は優秀なので大目に見られてるんだ。俺の今までの現場は、犯人が自殺しちまっている場合が多い。自殺ってことになっているが本当はそうじゃない。俺が犯人を殺って、自殺に見せかけているんだよ」
「なんだ。あんたもそういう人だったのか。俺も自殺に見せかけるのか?」
「いや。お前は銃で殺す。お前のような凶悪犯は、正当防衛をでっち上げやすいからな。女は睡眠薬で寝ていて何も知らない。俺はお前を殺して女を救う。目撃者のいないこの状況になるまで、お前を泳がせたのさ」
「なるほど。かなり、いっちまってるな」
男は下を向いて笑っていると思ったら、不意に飛びかかってきた。隠し持っていた注射器で俺の首を刺そうとした。俺は引き金を引いた。暗い河原に一発の銃声が鳴り響いた。
男は倒れた。俺は奴の心臓を撃ち抜いていた。最高の気分だった。仕留めた快感に俺の体は震えた。全身に喜びが満ちる。
俺はハンターだ。ハンターだが同時に、この男が言ったように、人喰い熊でもあるのだろう。この殺しの味、まったくやめられそうにない……。
(了)