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第38回「小説でもどうぞ」佳作 究極のサプライズ 藤白ゆき

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小説・シナリオ
小説
小説でもどうぞ
第38回結果発表
課 題

サプライズ!

※応募数263編
究極のサプライズ 
藤白ゆき

「ウソだろう?」
 今や世界中に拡散され、テレビでも頻繁に流されている動画を見て、大地均は呆然とつぶやいた。
 動画は大昔の映画のように円盤から宇宙人が光の道を通って地面に降り立つ場面から始まっている。手足が小さく子供のように小柄で、灰色の肌に黒目がやたら大きい宇宙人は、万能翻訳機のようなものを使って世界の主要な言語で高らかに宣言するのだ。
 一ヶ月後にこの星を滅ぼすと。
 そうして一方的に地球殲滅せんめつ予告をすると、宇宙人は円盤に戻り、そのまま飛び去った。
 最初、人々はこんなのは単なるディープフェイク動画だと笑って相手にもしなかった。
 しかし、フェイク動画、或るいは集団催眠、集団幻覚、ヒステリーで片付けるには、あまりにも大勢の人間に目撃されていた。
 その中には大臣や首相クラスの大物政治家のほか、大財閥の当主など世界経済の大立者、世界的に高名な学者など各界の著名人も含まれていた。
 それで対応策を講じるために国連でもしばしば地球防衛会議が招集され、先進国でも各国首脳会談が頻繁に行われるようになった。メディアでも各界の有識者たちが毎日喧々諤々けんけんがくがく、論争を激しく戦わせている。
 事ここに至り、ようやく人々はこれがいたずら目的のフェイク動画でも冗談事でもないことを認識し始めた。

 均の周りでもリアルでもネットでもみんながざわついていた。
 しかし、誰が何をどう思い、どんな意見を表明しようとも、自分たちに出来ることは何もないという結論に至るしかなかった。
 均の通う大学も学生たちが恐慌状態で授業にならず、休講が相次いだ。
 見切りをつけた講師も准教授も教授も次々と大学を辞めていった。
 一ヶ月以内に死滅するのが決まっているのに、今さら勉強も試験も学歴も就職もクソもないと、学生たちも大学に行かなくなった。  
 均も家に引きこもり、たまに友人たちとメールやLINE、他のSNSで交流するだけで、日がな一日ゲームやネットの世界に没頭、逃避して過ごした。
 
 連日連夜、世界中で政治家や学者、知見者たちなどが生成AIも駆使して、いくら知恵を絞り、議論を尽くしても、これといった名案や根本的な解決策は浮かばなかった。
 いまだテラフォーミングされた星もないので地球から逃げだして移住することも出来ない。 
 そもそもそんなに大勢の人間を運べる巨大な宇宙船もなく、今から建造するにしても締め切りまでに圧倒的に時間も技術も材料も何もかも足りなかった。また、どんなに頑丈なシェルターに隠れたところで、地球ごと破壊されたら意味がない。正面きって宇宙人サイドと戦うとしても科学力、兵力にあまりにも差があり過ぎて、相手にもならないのだ。
 この真の絶望の前では、AIもどんなに高名な精神科医、セラピスト、哲学者や思想家、聖職者、文学者もまるで用をなさなかった。おためごかしのおざなりな慰めの言葉を聞かされたところで、毛筋ほども心が救われない。
 人々はただ座して死滅を待つしかなかった。
 一ヶ月後、約束通り宇宙人が再訪した。
 国連代表が万能翻訳機を使って語り始める。
「我々は全面降伏し、地球の領土も資源も全て譲渡いたします。ですから、どうか地球を滅ぼすのだけは止めていただきたい。」
 額に地をすりつけ、土下座して懇願する。
 情けない、みっともないと思う地球人は一人もいなかった。
 ただ生き延びること、それだけの一点に全地球人の心が集約していた。
 今この瞬間、このときだけは地球上で戦争も紛争もテロも一切の犯罪活動もピタリとまっていた。地球存亡の危機に直面して、ようやく彼らも目が覚めたのだ。
 しかし宇宙人は非情にも首を振ると、サッと手を振り上げて母船に合図した。
「スペシャル波動砲用意!」
 全地球人の顔が絶望に歪む。
 目を瞑って滅びの瞬間を待った。
 ところが一分経っても五分経ってもシーンと静まり返ったままで、何も起こらない。
 あれ? どうしたのかなと思って目を開けて見ると、宇宙人がポツリと言った。
「なーんちゃって」
「は?」
 まだ土下座をしていた国連代表が怪訝そうに訊き返す。
「ドッキリだよーん」
 宇宙人がふざけたポーズでテヘペロする。
 全地球人がずっこけた。
(了)