第38回「小説でもどうぞ」佳作 サプライズ!神社 西川友美
第38回結果発表
課 題
サプライズ!
※応募数263編
サプライズ!神社
西川友美
西川友美
男は最近ツイてなかった。仕事ではミスをしてクビになり、そのせいで彼女には振られ、挙句の果てに財布を落とした。財布にはクレジットカードや運転免許証なども入っていたので、その手続きは相当の時間と労力と金を要した。預金も底を尽き、今月中にも家賃滞納でアパートを引き払わなければならない。
男は夜道をトボトボと歩いていた。今日、就職の面接があったのだが、あっさりと落ちた。これ以上ないほど惨めで、もう闇バイトでもするかな、そんな気分だった。そのとき、ふと横を見た。今まで毎日通っていた道なのに初めてそこにある鳥居に気がついた。
「こんなところに神社あったかな?」
暗い参道を恐る恐る進んだ先に荒れ果てた社殿があった。せっかくだからお参りしていこうと、小銭入れからなけなしの一円玉を取り出し賽銭箱に放り投げ、鈴を鳴らす。
「神様、仏様、キリスト様。誰でもいいから助けてください」
二回柏手を打つと、いきなり雅楽が大音量で流れ出した。雅楽というのはお正月によく聞くあれだ。そして周りは昼間かと思うほどの眩い光で満ち溢れ、そこに一匹の狐が現れた。
「サープラーイズ! あなたは本神社、百万人目の参拝者です! おめでとうございまーす! 私は神様です。あなたの願い事を一つだけ叶えます。なんでも言ってください」
男はこの非現実的は光景に
「本当に? なんでも叶えてくれるんですか?」
「本当ですよ。だって私は神様ですから」
「例えば、お金とか? 宝くじが当たったりとかするんですか?」
「もちろんです。私は金運の神様なんで、お安い御用です。ほら、昔話で花咲かじいさんとか、笠地蔵とかあるでしょ。あの人たちも百万人目の参拝者なんですよ。神社は百万人ごとにこう言った特典があるんですよ。昔はうちもこの辺りでは結構デカめの神社だったんだけど、平家の没落とかいろいろあって、百万人到達がこんなに遅くなっちゃって……」
「何か
「そなたの望み、しかと受けた。叶えて進ぜよう」
そう言うと狐はくるりと宙返りをしてポンっとはじけて消えてしまった。辺りはまた闇に包まれた……。
次の日、男は早速宝くじを購入した。今思い出してみると夢を見ていたという思いが強くしてくる。何せお賽銭もたった一円だし、これで本当に宝くじが当たるわけがない。しかし宝くじは本当に当たった。しかも一等三億円。一枚しか買わなかったので、前後賞なしだが、男には十分過ぎる金額が手に入った。
高額当選を果たした男が最初にしたことは神社を建て直すことだった。荒れ果てた社殿を新しくして、宮司さんにも来てもらった。そして男はSNSに「ここにお参りして宝くじ一等大当たり」と書き込むと大バズり。人々が押し寄せ、神社はあっという間に人気第一位のパワースポットになった。
「やあ、こんなにすごいことになるとは思いもしませんでした。あなたからこの神社の宮司を頼まれたときは正直嫌だったんですが、この神社がこんなに大きくなったのはあなたのおかげです」
「宮司さんにお願いして良かった。私はこの神社に恩返しがしたかったんです」
「あなたの奇特な行いが神様に届きますよ」
「ありがとうございます」
それから数年の時が経った。神社は相変わらず人で溢れ、海外からの参拝客も絶えなかった。
しかし、ここで事件は起こった。ある日、突然、賽銭箱が閉まってしまったのだ。どうやっても賽銭箱は開かない。するとせっかくお参りに来たのにどういうことだと、人々は怒りまくりSNSには誹謗中傷の嵐が吹き荒れる。あっと言う間に神社は寂れていき、人っ子一人いない最初の神社に戻っていた。
男がこの神社に戻ってきたのはそれから一週間経った後だった。男は今まで海外に行っていたのだ。世界一周豪華クルーズの旅。本当はすぐ戻ってきたかった。見込みが外れた、もう少しかかると思っていたのに。バズると人はバカみたいに押し寄せるからな、でも目標は達成したのだ。
目標は、参拝者九十九万九千九百九十九人。そう、男の目的はこれだったのだ。神社をバズらせ、参拝者を増やし自分がまた百万人目になるため賽銭箱があらかじめ閉まるように細工しておいたのだ。
男は特殊な鍵で賽銭箱を開け、お賽銭を投げ入れた。これで俺はまた百万人目だ。今度は宝くじを連番で買ってやろう。しかし、いくら待ってもあのときの狐は現れなかった。一体どういうことだと、男はがっくりと膝をついた……。
遡ること昨日の夕方、一人の男の子が神社の前に立っていた。男の子は二回柏手を、打つと神様にお祈りした。
「サープラーイズ! 百万人目おめでとうございまーす! 願いごとをどうぞ」
狐がそう言うと、
「でも僕お賽銭入れてないよ」
「お子様はプライスレス。願いごとをどうぞ」
「僕、悠人くんとけんかしちゃって、仲直りしたいんだ。神様どうしたらいい?」
「なるほど、私の専門外ですけどお任せください。仲直りできますよ、ごめんなさいって言ってごらん」
「ありがとう、悠人くんにあやまってくる!」
狐はにっこり笑って
「ではまた百万人後に」
くるりと一回転して跡形もなし……。
(了)