医師から作家へ転身し、芥川賞を受賞した朝比奈秋の新作『受け手のいない祈り』が3月26日に発売された。本作は、朝比奈氏が医師として救命医療に従事していた経験を基に、過酷な医療現場の真実を描いた衝撃作だ。

朝比奈氏は2021年のデビュー以来、医師としての経験と豊かな想像力で話題作を次々と発表してきた。昨年の第171回芥川賞受賞作『サンショウウオの四十九日』では、結合双生児の姉妹の内面世界を見事に描き、高い評価を得た。

今回の『受け手のいない祈り』は、『サンショウウオの四十九日』以前の2023年秋に執筆された作品だ。文芸誌掲載時から大きな反響を呼び、芥川賞候補の本命と目されていたが、惜しくも候補には選ばれなかった。今回の単行本化にあたり、大幅な加筆と改稿が行われ、さらにテーマが深められている。

物語は、「誰の命も見捨てない」を院是に掲げる大阪近郊の総合病院を舞台に展開する。主人公の青年医師・公河は、感染症の拡大による医療逼迫の中、70時間を超える連続勤務を強いられる。命を救った患者たちは日常に戻れるのに、医療従事者たちは過酷な現場から抜け出せない。「我々の命だけは見捨てられるのか」という切実な問いが、読者の心に突き刺さる。

作家の九段理江氏は、「同時期に発表した『東京都同情塔』ではなく、この作品が芥川賞を取ると思っていた」とコメントしており、本作の文学的価値の高さを示唆している。

朝比奈氏自身も「あの期間、おそらく世界で一番働いた。医師時代の過酷な勤務から生まれたこの小説を、読んでいただければ嬉しいです」と語っており、作品への思い入れの強さが伝わってくる。

医療現場の実態を赤裸々に描きつつ、命と魂の相克という普遍的なテーマに迫る本作。医療従事者の献身と苦悩、そして社会の在り方を問う重要な一冊となりそうだ。

出典: https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000001978.000047877.html