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第53回「小説でもどうぞ」選外佳作 罪深いクリスマス 荻野直樹

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小説
小説でもどうぞ
第53回結果発表
課 題

※応募数466編
選外佳作 

罪深いクリスマス 
荻野直樹

 クリスマスに予定があると言ってもそれでハッピーだとは限らない。
 何もないよりいいと言われそうだが、ここ数年俺が参加している集まりの内容を聞けばさもありなんと納得するだろう。まだ仕事をしている方がマシだと思うかも知れない。
 きっかけは還暦記念の同窓会だった。
 大学時代のサークル仲間が久しぶりに集まったのだが、その日はたまたまクリスマスで、そのせいだろうか参加者が余り多くなかったうえに、一次会が終わると多くはそそくさと帰って行った。それぞれの家でお祝いをするためだろう。残ったのは俺を含めて五人だけで、バツニ・バツイチ・ずっと独り身と要するにクリスマスを一緒に過ごす人がいない者ばかりが残ったのだった。
 俺たちは自暴自棄のように安酒を煽っていたのだが、その内に誰かが言い出した。
 これから毎年のクリスマスにこの五人で集まろう。
 孤独で寂しい初老者たちのパーティーを開いて、ちまたに満ち溢れる幸せそうなクリスマスを呪ってやろうじゃないか!
 俺たちはグラスを合わせて賛同し、以来、クリスマスに集まっては愚痴をこぼしながら酔い潰れているのだった。負け犬の遠吠えの会と言っていいようなものだ。

 ラインが来た。
 今日の場所と時間の連絡だろう。
 俺はつけっぱなしのテレビを見ながら外出の用意を始めた。浮き浮きと出かけていくような集まりではないので、着ていく服も普段着と変わらない。おしゃれなどする必要もないのだ。
 画面には年末年始の休みを海外で取る人の、出国ラッシュが始まった空港の様子が映し出されていた。ハワイやらグアムやら果てはヨーロッパと威勢のいい言葉が満面の笑みと共に流れて来る。俺とは別の世界の住人がどこへ行こうと構わないが、こんなのをニュースと言うのかねと疑問に思いながら、改めてラインを確認してみると、思わずスマホを落としそうになる程ビックリした。
「急で悪いけど、今晩、時間ある?」
 俺が入っている健康マージャンクラブの女性からだった。
 ボケ防止のために一年くらい前に入ったのだが、学生時代の豊富な経験が役に立ち、俺はその中で一目置かれる存在になっていた。
 この女性は夫と二人でよく来ていて、俺と卓を囲む事が多くごく自然にグループラインを始めるようになったのだ。
 俺の好みのタイプの女性ではあったが、ご主人は俺が逆立ちしても敵わないような感じの良い男だったし、何よりも夫婦はいつも仲睦まじく、実際、今夜も二人で食事に出かけると言っていたはずだった。
 俺は少し迷った末にラインを返した。
「時間はあるけど、今夜はご主人と食事では?」
 すぐさま怒った顔のマーク付きで彼女からラインが飛んできた。
「些細なことでケンカ! あの人は行かないって言うから。せっかく予約しているしもったいないから、ピンチヒッターお願い!」

 ありがとう!
 神様は本当にいるらしい。
 俺は思わぬ幸運に飛び上がりそうになった。
 仲間には悪いが、ただ管をまくだけの生産性のない飲み会よりは、たとえ代打だとしても女性と二人だけで過ごすクリスマスの方を選ぶのは当たり前のことだ。すぐさま、今夜は風邪ぎみなので移すと悪いからキャンセルすると連絡しておいた。
 普段着を脱ぎ捨て滅多に着ることのないジャケットを押し入れから引っ張りだした。無精髭も剃らないといけない。髪も整えたかったが流石にその時間はないようだ。待てよ、何かクリスマスのプレゼントを買って行った方がいいのか? いや、かえって気を遣わせるだけかも。それより、お礼にとディナーの後でもう一軒スイーツかコーヒーでもご馳走する方が良いかも知れない。その方が彼女と少しでも長く過ごすことができるからな。今夜の天気はどうだっただろう。雪でも降らないだろうか。そうなれば実にロマンチックなのだけれど。どっちしても女性と聖夜を過ごすなんて何十年ぶりだろう。
 俺は浮かれあがっていた。
 もう年末ジャンボが当たらなくたって構わないと思った。これから先の運を全て使い果たしていたとしても悔いはなかった。

 また、ラインが来た。
「ごめんなさい。さっきの話はなかったことにして。あの人が謝ってきた。やっぱり二人で出かけます」
 やっぱり、こうなるのだ。俺はいつもこうなのだ。
 意気消沈とはこのことだ。
 みるみるうちに全身から気力が抜けていくのが実感できた。体重が五百グラムほど減ったに違いない。
 この涙顔マークと笑顔マークはなんだ!
 馬鹿にしやがって!
 俺はジャケットからまた普段着に着替えながら悪態をついていた。
 神様よ、良い夢を見させてくれたことには感謝するが、あまりに短すぎないかい? かえって罪作りじゃないか。
 さて、こうなればまたいつもの俺の居場所へ戻るしかなさそうだ。
 俺はラインを送った。
「風邪は収まった。やっぱり参加する。今夜は飲み明かそうぜ」
(了)