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第53回「小説でもどうぞ」選外佳作 寝ずの番 詩雪

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小説
小説でもどうぞ
第53回結果発表
課 題

※応募数466編
選外佳作 

寝ずの番 
詩雪

 さて、今夜もいただきに行こうか。町はずれの暗い田舎道。俺はボロい軽自動車を注意深く走らせた。こんな僻地じゃ防犯カメラもないだろう。前回同様、また上手くいく。絶対に。
 人生なんてどうにもならないものだと諦めてる。金もない、女にも縁がない。楽しいことなんて何もない。まさに底辺の俺。職を転々としながら今は宅配のバイトをしている。前に配達先の一人暮らしの婆さんが庭先で転んでいたのを助けたことがあった。その家には定期的に食料品を配達していて、玄関先でちょっとした会話をするようになった。婆さんはいつも銀行の封筒から金を取り出して代引きで支払っていた。
 ある日、俺は一つの計画を立てた。ダメ元で婆さんに声をかけてみた。
「荷物、重いでしょう。もし良かったら家の中まで運びますよ」
 婆さんは一瞬きょとんとしていたが、すぐに笑顔で答えた。
「そうしてもらえると助かるよ。じゃあ廊下までお願いしようかね」
 俺は家の中に入ると廊下へと段ボール箱を運んだ。婆さんが「お礼にジュースを」と言いながら台所の方に行った隙に、俺は素早く廊下の掃き出し窓の鍵を開けた。そして何事もなかったように婆さんを待った。
「はい、どうぞ」
 婆さんがペットボトルを俺に差し出した。
「ありがとうございます。じゃあ、失礼します」
 俺はそう言うと家を出た。
 その日の深夜、俺は婆さんの家に行き、鍵を開けておいた窓から家の中に忍び込んだ。婆さんの姿は見えなかった。きっと奥の部屋で寝ているのだろう。すぐ近くの部屋を見回して目に留まった箪笥たんすの引き出しを開けると厚みのある封筒がいくつも重ねられて並んでいた。俺はその中から一つだけ封筒を持ち出した。そして入ってきた窓から外へ出た。少し離れたところに駐車しておいたボロ軽に乗り込むやいなや、封筒の中身を確認した。五十万円入っていた。ということはあの箪笥には数百万円、いやひょっとしたら他の場所にもっとあるかもしれない。ざわついていた罪悪感は高揚感でかき消された。
 後日、バレてないか心配しながら配達に行くと、婆さんは気づいていないのか、いつもと変わらない様子だった。そもそも封筒の数さえ把握していないかもしれない。
 そして今夜。俺は再び、婆さんの家にやってきた。例の窓の鍵は昼間開けておいた。窓を開けて中に入ると俺は思わず息を飲んだ。奥の部屋が障子越しに薄ぼんやりと柔らかな灯りを放っていた。焦った俺は慌てて外に出ようとした。すると障子がスッと開いた。
「あら、遅かったわね。待ってたのよ。こっちよ」
 マスクと眼鏡の中年女が俺に向かって言った。
「う、うん」
 俺は思わず返事をしてしまった。俺を誰かと勘違いしているのだろうか。とにかく今は話を合わせて、どこかのタイミングで逃げ出すしかない。
「さ、こっちこっち」
 呼ばれるままに奥の部屋に行くと、俺は腰を抜かしそうになった。ロウソクの火が揺れる中、顔に白い布をかけられた人が布団に横たわっていた。まさか婆さんか!?
「寝ずの番、お願いね」
「寝ずの番!?」
「あなた宅配のお兄さんでしょ、箪笥から金を盗んだ。母から聞いたわ。窓の鍵が開いてたから今夜も来るかもって言ってたけど、本当に来たのね。寝ずの番をしたら、その罪を見逃してやるわ」
 俺はうなだれるしかなかった。
「母のためにロウソクの灯りを絶やさないでね。眠気覚ましにコーヒーを」
 ポットに用意されたコーヒーをカップに注いで俺に差し出した。動揺した俺は一気に飲み干した。
「私は隣の部屋で少し休ませてもらうわね」
 そう言うと女は部屋を出て行った。母のためにってことは、婆さんの娘か。しかし婆さん、昼間は元気だったぞ。こんな急に死ぬなんて。とにかくここから早く逃げないと。あれ? おかしいな。ロウソクの火が何だかぼんやりしてきた。どうしたんだろう。急に眠気が……。そこで俺の記憶は途切れた。
 どれくらい時間が経ったのだろう。ふと目が覚めた。外は明るく、どうやら朝になったようだ。部屋を見回すと、ロウソクの火は消えて、婆さんの遺体が布団に横たわっている。女がいない。どこへ行った? 外からパトカーのサイレンが聞こえてきた。
「早く! こっちです!」
 さっきの女か? いや、違う。男の声だ。警察官が数人駆け込んでくると俺に住居侵入罪、強盗殺人罪などと言っている。
「俺は殺してない! あの女に聞けよ。婆さんの娘がいただろ!」
 さっきの男が凄い形相で俺に向かってきた。
「娘? 娘なんていないぞ。子供は俺だけだ。息子一人だよ。母と連絡が取れないから心配して飛んできたら、こんなことに。箪笥の中の金も空っぽ。おまえが母さんを殺して金を盗んだんだろう!」
 え? 娘じゃない? そういえばどこかで見たような……あ! あの家で何度か見た、妙な宗教の勧誘をしていた女かもしれない。その瞬間、あの女の高笑いが聞こえたような気がした。
(了)