第54回「小説でもどうぞ」最優秀賞 飼い殺し 大河かつみ


第54回結果発表
課題
才能
※応募数358編
大河かつみ
母さんへ
一か月が過ぎ、寮生活にも少し慣れてきました。朝早くから夜中まで野球漬けの毎日で休みはありません。おかげで学校の授業中は疲れて寝てしまいます。先生も注意しないのは野球部が忙しいのを知ってくれているのだと思います。
甲子園常連校の野球部員は、さすがに全国からスカウトされた選手ばかりなので上手い人ばかりです。皆、僕同様に監督から野球の才能を見込まれて入部してきたのだと思います。一年生から三年生まで部員が百人。その中で試合に出られるのはベンチ入りの二十人だけ。狭き門ですが、なんとか頑張ってベンチ入りを目指します。また、手紙を書きます。
母さんへ
夏の大会が始まりますが、僕は補欠でベンチに入れませんでした。僕と同じ中学のエースだった加藤君でさえ、ダメでした。でも、まだ一年生だしこれからです。来年は絶対レギュラーになるぞ! また連絡します。
母さんへ
昨日、少しがっかりするようなことがありました。それは、監督がいまだに僕の名前を憶えていなかったことです。確かに補欠で練習試合にも出られませんし、ここ半年、話しかけられる機会はありませんでしたが。本当に僕は監督に才能も見込まれていたのでしょうか?
追伸 大晦日と元旦は家に帰れそうです。
母さんへ
正月に帰って以来ですね。二年生になり、最近は自分でもメキメキ守備が上手くなっていることを実感します。でも、周りも同じように上手くなっているので、その差は縮まりません。一年生には既にプロに注目されている子が入ってきたので焦ります。しかもキューバとドミニカからきた留学生二人が入ってきてホームランをガンガン打つので嫌になります。でも頑張ります。自分の才能を信じて。
母さんへ
暑い日が続きますが、いかがお過ごしですか?
夏の大会が始まりました。今年も応援団と一緒にチームの応援をスタンドでしています。加藤君も一緒で少しホッとしています。今年こそ甲子園に行って応援したいと思っています。でも、応援よりも練習試合でもいいから試合に出たいです。加藤君とお互い頑張ろうと誓い合いました。
母さんへ
いよいよ三年生になりました。今年こそは試合に使ってもらえるように頑張ります。とりあえず監督に名前を覚えてもらえるように、監督の行く先々で素振りをしてアピールしています。先日は監督が行ったキャバクラの前で出待ちして、店を出たタイミングで素振りしました。見て見ぬふりをしていましたが、こちらのやる気は伝わったと思います。
母さんへ
春季大会が始まりましたが、相変わらず僕は試合には出られません。ただ、用具係を任命されたのでヘルメットなどをベンチに運んでいます。少しは役に立てて嬉しいです。そういえば対戦相手の学校に同じ中学だった吉田君と菊池君が出ていました。二入ともレギュラーで、試合ではヒットを打つなど活躍していました。僕より下手くそだったのにと思うと悔しいですが、結果はこちらのコールド勝ちです。夏の大会でも彼らが甲子園に行けることはないでしょう。用具係とはいえ、行ける可能性があるのは僕の方だと思います。
追伸
加藤君が、とうとう野球部を辞めてしまいました。加藤君の話ではウチの監督は県の目ぼしい中学生には全員に声をかけて入部させてしまうのだそうです。そうすればライバル校にいい選手が集まらず戦力が整えません。全国から集めた選りすぐりの選手で試合を行い、県にいた良い選手は抱え込んで飼い殺し。上手く化ければ儲けものという考えなのだそうです。加藤君はそれを知って辞めていったのです。加藤君も僕も中途半端に野球の才能があったのがいけなかったのかもしれません。
母さんへ
いよいよ高校最後の夏の大会が始まりましたが、遂に僕も大会でグラウンドに立つことができました! といってもグラウンドキーパーと白線引きです。球場の裏方のお手伝いを始めたのです。その際、大会役員の方から僕の引いた白線は美しいとほめられました。案外、僕の才能はここにあったのかもしれません。それからの僕は生き生きとしています。インスピレーションが次々と湧いてくるのです。ある試合の時はピンと閃いて一塁線をホームベースから放射線状に四本ほど引いてみました。実に美しく斬新なアイデアだったと自負しています。おかげで試合では打った選手がどの線に沿って走ったらいいかわからず、まごまごしているうちにアウトになってしまいましたが、構いやしません。ある日の試合の前では役員の監視していないスキに、グラウンド一杯にナスカ平原の地上絵の猿と鳥を描いてやりました。場内から歓声(怒号だったかもしれませんが)が沸き起こり、見事な出来で一部のネットの評判も上々です。半日ほど試合日程が遅延してしまいましたが、どうでもいいです。明日はミステリーサークルを描くつもりです。そんな僕の芸術に注目してくれる人がチラホラ出始めています。今、僕は青春しています。
(了)