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第54回「小説でもどうぞ」佳作 こっち見て笑うな! 吉田猫

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小説
小説でもどうぞ
第54回結果発表
課 題

才能

※応募数358編
こっち見て笑うな! 
吉田猫

 ちょっといいかな? 
 今日、どうしても君に言っておきたいことがあるんだ。いや、そんな大そうなことじゃないんだけれどさ。前から少し考えてることがあってね。こんな機会だから親友として君に少しお話ししようと思ったんだ。
 あのね君はさ、昔から僕と一緒にいるとき「前の暗闇に誰かいるのが見える」とか「そこに誰か立ってる」とかよく言ってたよね。そんなとき、いつも僕はわざと驚いた顔して、怖いな、って言いながら相槌を打ったりしたけれど、実は君の言ってることをまったく理解することができなかったんだ。だってしょうがないよね、そんな体験を僕はしたことがないんだから、共感できるはずもないよね。
 もちろん君は噓つきでないことは長い付き合いの僕が一番知っているよ。だから君には何かが見えたり感じたりする才能があるとは思うんだ。でも実のところそれはいわゆる心霊的なものではなくて、君の頭の中だけで起きてることじゃないかなっていつも思っていたんだよね。こんなこと言ったら君は怒るかもしれないけどさ、簡単に言うと君が勝手に思い込んでるだけのことじゃないのかなって……。勘違いしないでくれ。僕は君には不思議な才能があることを疑っているわけではないからね。まあ才能って呼んでいいのかよくわかんないけどさ。
 僕も亡くなったおばあちゃんと夢の中で再会したことが何度かあるよ。なぜか死んだときより若い姿だったりするんだよね。そういうのって懐かしいよね。でもそれは僕の記憶が頭の中で再生されているだけで不思議なことじゃないよね。僕の場合は当然眠っているときだけど、もしかして君は起きているときでも頭の中が夢を見ている状態になっていて、それで不思議なものが見えたり感じたりすると勘違いしているんじゃないのかな。機嫌悪くされると困るけど、これは別の意味で特殊な能力なのかもしれないよ、きっと。やっぱりそれって才能だから自信もっていいと思うよ、たぶん……。でもあんまり堂々と人に言わないほうがいいかもしれないけどね。
 でもさ正直に言うと、本当はもう少し気を遣って欲しかったな、って思うこともたくさんあったんだ。口にはしなかったけどね。学生のころよく仲間と旅行に行ったよね。最近は忙しくてあいつらと会うこともできなくて寂しい限りだけどね。貧乏旅行だったから泊まる宿といったら古い民宿とか今にも壊れそうな旅館とかばかりで、暗くてジメジメしてて布団も冷たくてね。あれを見ればなんか恐ろしい者が住み着いていてもしょうがないって感じのところが多かったよね。なのに君はわざわざ大袈裟に「俺、ここだめ」とか「なんかいる」とか言って青ざめたりするんだ。誰だってそう思うって、あんな部屋に泊まれば。でも結局なんにもありゃしない。みんなは君がそう言うたびに面白がっていたけれど、僕はちょっと嫌だったな。自分の思い込みを事実のようにいつも恐ろし気に語る君を見ていて、またか、ってとても嫌な気分になっていたんだよ。本当に不愉快だったんだからな。
 だからさ、やっぱり自分の思い込みとか夢みたいなこととか、つまり……はっきり言うと、ただの妄想を当たり前のように他人にあまり言わないほうがいいと思うんだ、君のためにも。さっきは才能って一応言ったけど、実際は変な人とか思われたりするしね。僕は君と長い付き合いだから言うけどさ、他人はこんなこといちいち言ってくれないと思うよ。そうじゃないかな。
 でも……君は今、僕の話をまったく聞いていないようだな。まあこんな場所だからしょうがないけど、でもだんだん腹が立ってきたぞ。僕だって今まで気を遣って我慢してきたんだからな。
 ああ、もう面倒臭いからはっきり言うわ。君が勝手に思い込んでるだけの妄想を事実のように人に言うのはやめてくれよ。君は人を惑わせてるだけなんだよ。
 見てくれよ、仏壇の前で君が僕の両親に「息子さん、ご両親に感謝してますよ」とか「今は幸せにしてますよ」とか言うもんだから父さんまで泣いてるじゃないか。いい加減なことを言って人の親を泣かせるもんじゃないよ。何の権利があって君はただの思い付きをそんな偉そうに語れるんだ。見えてもいないくせに。生きてる人間に死んだ人間なんか見えるはずないだろ。
 見えたとしたらそれは妄想なんだよ!
 この僕が言うんだから間違いないんだよ!
 大体、君の耳元でこんな大声で叫んでいるのに、君はここにいる僕のことにまったく気が付いてもいないくせに。とんだ才能だぜ。笑わせるわ。あーあ、こりゃもう詐欺だな。
 もう、本当にいい加減にしてくれ……えっ、ちょっと待ってよ。今……君、僕に向かって、もしかして、こっそりウインクした……?
「息子さんは元気ですよ。今も私の耳元でわーわー言ってますよ」とか言った……?
 そんなこと言うから僕の両親が驚いた顔してるじゃないか……。えっ、またこっち見てるし……。
 おっ、お前! こっち見て笑うな!
(了)