第54回「小説でもどうぞ」佳作 光る風のサイノウン ササキカズト


第54回結果発表
課 題
才能
※応募数358編
ササキカズト
高校に入学してから二週間が過ぎた。何か部活をやりたいと思っているが、まだ決められない。
僕は体育館横のグラウンドを見渡せる斜面の上に座り、いろんな部活の練習風景を眺めていた。サッカー部や陸上部、野球部やテニス部などがグラウンドを分け合って練習していた。体育館からはバレー部やバスケ部などの声も聞こえてくる。校舎からはブラスバンド部の演奏や合唱部の歌声も耳に届く。
中学では水泳部だった僕だが、平凡なタイムしか出せず二年の途中でやめてしまった。何をやっても平凡な僕が、部活をやる意味って何なのだろう。そんなことを考えながら、斜面の上でひざを抱え、ぼーっと座っていた。
突然のことだった。前方から蛾だか蜂だかわからないが、何か大きな虫が僕の顔を目がけて飛んできた。虫が大嫌いな僕は「うわー」と言って反射的に体をひねってよけた。バランスを崩し、前転をしながら斜面を転げ落ち、なぜか地面を蹴ってジャンプし、二メートルほど飛んでグラウンドに着地した。
ただ立ち尽くしていたら、パチパチという拍手の音がして誰かに声をかけられた。
「お見事。素晴らしいジャンプと着地だ。君には幅跳びの才能がある」
陸上部のユニフォームを着た上級生だった。
「は……幅跳び?」
「僕は陸上部の部長なんだけど、わが陸上部に入ってその才能を伸ばしてみないか」
「いや!」
陸上部部長の言葉をさえぎるように声がした。体育館のほうから上級生が斜面を下りてきた。
「今の見事な前転を見ていたよ。君のその才能は体操競技で生かすべきだ。ぜひ体操部へ!」
「ちょっと待った!」
また別の上級生だ。
「君の才能は虫を素早くよける反射神経。フェンシング部に来たまえ!」
「いいや! よける反射神経なら、ボクシング部だろ!」
「いや卓球だ!」
「バドミントンだろ!」
いつの間にか僕は、大勢の人に囲まれていた。
「うわ~という美しい声を聞いたわ! 合唱部に入るべきだわ!」
美しい? 叫び声が?
「虫を素早く見つける才能は、生物部で生かすべき!」
虫は嫌いなんだって。
「体をひねって虫をよけ、頭脳をひねってクイズに正解! クイズ研究部へ!」
関係ないだろ。
「ぼーっと座っていたね。ボート部へ!」
だじゃれ!
「○○部へ!」
「いや××部に!」
ああ、頭がおかしくなる!
本当に頭がくらくらしてきて意識が遠のいた。そして目の前が真っ暗になった。
気がつくと僕は、草原の真ん中の道に倒れていた。道は深い森へと続いており、森の向こうには大きな山がそびえ立っていた。険しく高い山で、山頂からは不気味な黒い煙が噴き出していた。
ここはどこだ?
立ち上がって辺りを見回すと、後ろに一人の男が立っていた。剣を腰に下げている。中世ヨーロッパの騎士のような男だった。
彼は僕を見るなり、強風を受けたように足を踏ん張りながらこう言った。
「こ……こんなにすごいサイノウンは感じたことがない!」
「サ……サイノウン?」
「もしやそなたが、サイノウン救世主なのか!」
「サイノウン救世主? サイノウンって何?」
「おお! 自らのサイノウンに無自覚であるばかりか、サイノウンそのものを知らぬ者。正に老師の予言通り!」
興奮している騎士の向こうに見える空には、二つの太陽が輝いていた。……ここは異世界なのか?
「わたしはサイノウン騎士団の団長なのだが……」
騎士は話の途中で何かに気づき、森のほうを見た。
ブブブブという大きな音とともに、何かの群れが飛んでくる。蛾と蜂をかけ合わせたようなカラスくらいの大きさの虫だ。
「ちょうどいい。あのガハッチの群れで、そなたのサイノウンの実力を見極めよう」
「ガハッチ? だからサイノウンって何!」
ガハッチの一匹が、ものすごいスピードで僕の顔を目がけて飛んできた。
「うわー」と言って体をひねってよけた。僕はひねった勢いのまま高速で回転し、体から光る風のようなものが全方位に放たれた。そしてその光る風が、一瞬にしてガハッチの群を消し去った。
「光る風のサイノウン……」
騎士が恍惚とした表情でつぶやいた。
……って。
そんなことあるかい。
僕はグラウンドを見渡す斜面の上で、虫をよけたまま横になっていた。斜面を転げ落ちてもいないし、部活の勧誘など受けていない。当然異世界にも行っていない。
虫をよけたときに見た一瞬の夢。いや、僕の妄想だった。
「大丈夫かい?」
横になっていた僕に誰かが声をかけた。同じクラスの……名前なんだっけ。おとなしくて地味な感じの(僕もそうだが)、まだ話したことのないやつだ。
「なんか大きな虫をよけて、起き上がらないから心配になって……」
「ハハ、ちょっと妄想を」と僕。
「妄想? 何それ、面白そう。聞かせてよ」
このクラスメートを同類っぽいと感じたからだろうか。僕は今の妄想をすべて話して聞かせた。
「すごく面白いよ! それこそ才能ってやつだよ!」
彼は目を輝かせてそう言った。
「今の話、漫画にして描いてみなよ」
「漫画? 絵は苦手かな」
「じゃあ小説は? 僕が入部した創作研究部は、漫画や小説を書いたり、イラストを描く人なんかもいて、本を作ったりしているんだけど、よかったら見学に来ない?」
小説を自分で書くなんて考えたこともなかった。
結局僕は、高校三年間を創作研究部で過ごすことになる。
自分に小説の才能があるかなんてわからない。ただわかったのは、小説を書くことは楽しいということ。そして、何より大きかったのは、自分の居場所ができたということだった。
(了)