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第54回「小説でもどうぞ」佳作 とっておきの才能 ヨコタ

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小説
小説でもどうぞ
第54回結果発表
課 題

才能

※応募数358編
とっておきの才能 
ヨコタ

 昨日、夢を見た。
 その夢で、神様はボクにこう言った。
「君はいつも良い子にしているから、君に一つだけ才能を与えよう。どんな才能がほしいかね」
 ボクはとてもうれしくなった。そして、一週間後にお返事をすることを神様と約束して、目が覚めた。
 夢か……。でもボクは、夢に出てきた神様の言ったことを信じてみようと思った。そこで、どんな才能をお願いしようか、考えてみることにした。
 どうせなら「とっておきの才能」がいいな。
 クラスのみんながうらやましいと思う才能。たくさんの人を助けてあげられるような才能。これからのボクの人生を幸せにしてくれるような才能……。
 ふと、小学校で同じクラスのサトシくんの顔が頭に浮かんだ。そうだ、サトシくんみたいに運動ができる才能があれば、クラスの人気者になれるだろうし、将来はボクの大好きな阪神ドッグズの浅田選手みだいな野球選手になれるかもしれない。
 その晩、浅田選手が記者会見で、今季限りで引退することを発表した。自分の実力に限界を感じた、とのことだった。
「まだ三十代で若いのに……」
「この先どうしていくんだろうね」
 記者会見をテレビで見ながら、お父さんとお母さんがそう言った。やっぱりスポーツの世界は厳しいな。
 ボクは、別の才能をお願いすることにした。
 ビールの入ったグラスを片手に、お父さんはまだテレビを観ている。
 ボクのお父さんはシステムエンジニアである。学生の頃は文系で、大学を卒業して小さな会社の営業職に就いたみたいだけど、昔からプログラミングが得意で、それを活かして今の仕事に転職したらしい。お父さん曰く、前の職よりお給料も上がったし、これからIT系の仕事はどんどん増えていくだろうから、職に困ることはないだろうとか言ってたっけ。
 じゃあボクもパソコンやプログラミングが上手になる才能がほしいな。その才能があれば、将来いろいろなところで活躍できるかもしれない。
 お父さんのスマホの着信音が鳴った。会社の人からの電話のようだ。話しているお父さんの表情が、どんどん険しくなっていった。
「顧客の会社がサイバー攻撃を受けて、大量の個人情報が漏洩したらしい」
 そう言ってお父さんは、あわただしく自分の書斎に行ってしまった。グラスいっぱいに注がれたビールは一口もつけられないまま、ぽつんと食卓の上に残されていた。
 そういえばこの前も、急に仕事が入ったとか言って、運動会に来てくれなかったっけ……。
 ボクは、別の才能をお願いすることにした。
 テレビに再び目を向けると、いつの間にか別の番組になっていた。とある小説家がインタビューを受けていた。
「この作家さん、こないだ芥川賞をとったみたいよ。すごいわねえ」
 お母さんが興奮ぎみに言った。
 なるほど、小説が書ける才能なんてどうだろう。自分がいちから創ったもので、みんなをワクワクさせたり、ドキドキさせたり、感動させたりすることができる。なんかとっても素敵だな!
「苦労? そりゃあいくらでもありますよ。たとえば原稿の締切が近づいてきたり、いくつも重なったりしたら、本当に、生きた心地がしませんよ」
 そうか……。素敵、なことだけでは、ないよね……。自分の中のキラキラした妄想の世界が、粉々のがれきになって崩れ落ちた。
 ボクは、別の才能をお願いすることにした。
 その後もボクは、神様にどんな才能をお願いするか考え続けた。ボクの人生を一番幸せにしてくれる才能って一体何だろう。いくつか案は思いつくけど、その才能を手に入れた先の人生について考えると、いいこともあれば悪いこと、大変なこともたくさんあるなと思ってしまって、なかなか決められない。
 幸せになるって、結構むずかしいのかな。
 そんな考えが、ふと頭をよぎった、そのときだった。
 そうだ、これだ!

 約束の日の夜。あのときの神様が再び夢の中に現れた。
「どんな才能をお願いするか、決まったかね?」
 ボクは神様の目をしっかり見ながら、大きくうなずいた。そして、一週間いっしょうけんめい考えた、ボクにとっての「とっておきの才能」を神様にお願いした。
「なるほど。本当にそれでいいのじゃな?」
 ボクはもう一度、自信をもってうなずいた。すると神様は、やさしくにっこりと微笑んだ。
「君は本当に良い子で賢い子じゃな」
 そう言って神様はゆっくりと、どこかへ消えていった。

 あれから長い長い年月が過ぎた。
 ボクはもうすぐこの世を去るだろう。
 最高に幸せな人生だった。すごくお金持ちになったわけでもなく、すごく人気者になったわけでもない。楽しかったこともあれば、そうじゃなかったこともたくさんあった。けれどボクは今、心の底からそう思う。
 あのとき、神様にあの才能をお願いして本当によかった。どんな才能をお願いしたかって?
「いつどんなときでも、幸せだと感じられる才能、さ」
(了)