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第54回「小説でもどうぞ」選外佳作 秘密の天才 十六夜博士

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小説
小説でもどうぞ
第54回結果発表
課 題

才能

※応募数358編
選外佳作 

秘密の天才 
十六夜博士

 子供というものは急に成長するタイミングがあるのだろう。小学校四年生になったカズシが、読書感想文で金賞を取ったという。夏休みの宿題で書いたものだ。会社から帰ったタイミングで、妻のナオミが教えてくれた。
「凄いじゃないか」
 成績は良くも悪くもなかったし、いつもゲームばかりしているから、カズシにどんな才能があるのか検討がつかなかったが、なにかカズシの中に眠る財宝を見つけたような気がした。
「うん、こんな才能があるとはね」
 ナオミも嬉しそうだった。
 カズシを褒めてやりたくて、カズシの部屋に行くと、やっぱりパソコンでゲームをやっていた。カズシの場合、ゲーム専用機ではなく、パソコンでマインなんちゃらというゲームをやっている。プログラミングがしたいからパソコンが欲しいと一年前に言われた時は、将来のためになるだろうとか、プログラミングの才能があるかもしれないとか思ってしまい、まだ早いのではと妻ともに悩んだのだが、結局、買ってやることに決めた。だが、案の定というか、蓋を開けてみると、プログラミングをやるというよりはゲーム機になってしまい、実は後悔していた。
「読書感想文で金賞取ったんだって? 凄いじゃないか、カズシ」と褒めた。
 画面から目を離さないまま、「まあね」と、カズシが応じる。大したことじゃないよと言わんばかりの冷静さ。ああっ……、と俺は感嘆してしまった。小説家になった幼馴染みのモリくんを思い出したのだ。才能のある奴って、こういう感じなんだよな――。難なく才能を見せつけたモリくんのようなのだ。カズシには文才があるかもしれない。心が躍る。

 一年後、今度は絵の金賞をカズシが取ってきた。これも夏休みの宿題。読書感想文の時と同じように、帰宅のタイミングでナオミが教えてくれた。カズシはマルチタレントの天才か――、なんて、親バカさながら驚いたが、ナオミの顔が冴えない。訳を聞くと、その絵はカズシが自分で描いていないのではと言う。
「どう言うこと?」
「生成AIって言うの? パソコンに頼んで描かせているみたいなの」
 カズシの部屋を掃除していた時に、プリンターで打ち出された原画、原画を線画にしたもの、そしてカーボン紙が出てきたのだそうだ。画用紙と線画の間にカーボン紙を挟み、線画を映し取った後、原画を見ながら色を付けたのではないかと言う。
 うーん、と唸りながらも、小学生の頃を思い出した。今でも仲の良い親友のハセガワくんが、お父さんに夏休みの宿題の絵を描いてもらい、それが金賞になってしまったことがあった。その事実はバレなかったのだが、ハセガワくんもヤバいと思ったとのことで、長く秘密にしていて、その事実を教えてくれたのは、二十歳を過ぎた頃だったと思う。
 もう時効だと思うけど。
 ハセガワくんはペロリと舌を出した。
 万死に値するというほどではもちろんないけれど、良いこととも言えない。子供の頃に起こるちょっと後ろめたい思い出――。
「カズシに確認してみようか」
 コクリと頷くナオミと共に、カズシの部屋に向かった。
 部屋では相変わらず、カズシがゲームをやっていた。
「カズシ、絵で金賞取ったんだって?」
 画面から目を離さないまま、「まあね」と、カズシが応じる。
「それ、自分で描いたのか?」
「うん。AIに手伝ってもらったけどね」
 カズシは何事でもないように、サラリと我々の疑問に答えた。ナオミと顔を見合わせる。
「AIに描いてもらったものを写したのか?」
「うん。そうだよ」
 呆然と立ち尽くすまま、なかなか部屋から立ち去らない我々に、カズシは一旦ゲームをやる手を止めて、向き直った。
「なんで?」
 何か問題でも? という顔だ。
「いや……。AIが描いたものはカズシの作品じゃないから、それで金賞は良くないかなと思って」
「AIを使ったけど、プロンプトには僕の工夫が沢山入っているし、著作権も侵害してないよ。だから、僕の作品と言えるんじゃないかな」
 プロンプト? 著作権……。冷静に答えるカズシが大きく見えてくる。この子は本当に小学校五年生なのか……。ナオミは目を瞬かせていた。
「去年の読書感想文だって、AIに手伝ってもらったんだよ。『小学校四年生が書いた感想文』っていうプロンプトも入れて。リアリティー出るからさ」
 リアリティー……。
「普段の宿題だって、結構AI使ってるよ。ドリルとか暗記とかバカらしいじゃん。だって今のテストなんて、AIに聞けば解けるんだよ。東大も入れちゃう。問題はAIをどう使うかで、そこが勝負だよ」
 我々はもう何も言えなくなっていた。

 リビングにナオミと戻り、しばらく二人で呆然とした。
「新しい才能……」
 天井を見ながら、ぼんやりと呟いてしまった。
「そうかもね……」
 ナオミが同意する。
「カズシ、ある種の天才かもな……」
「うん……」
 才能というのは時代と共に変わるのかもしれない。実際、会社でも生成AIを使おうなんて動きも出ている。何がAIだ、なんて食わず嫌いにしていたが、そうも言ってられない気がした。
 強いものが生き残るのではない。適応するものが生き残るのだ。
 ダーウィンのそんな言葉が思い浮かぶ。
 だからと言って、正直なところ、このままで良いと納得出来る状態ではなかった。きっと、自分が古いのだろうけど――。カズシをどう導くべきか。全くわからない。
 はぁ……、とため息。ひとまず、生成AIに相談してみようか……。
(了)