第4回「おい・おい」最優秀賞 こっちの棚の住人 すなお


最優秀賞
こっちの棚の住人
すなお(埼玉県・52歳)
その棚の前で、私はしばらく固まった。ついに、とうとう、私はこの棚の住人になったのか……。
いつものドラッグストア。これまで何十年も、生理用品の棚に向かうのが当たり前だった。なのに晴天の本日、私が手にしているのは「吸水なんちゃら」とやんわりネーミングされた商品。
パッケージの女性は晴れやかに笑っている。風に吹かれている。
こんな爽やかに漏れる人、いるのだろうか。違うか、漏れても爽やかでいられます、ってことか。
「吸水ケア」「ちょい漏れ対策」「安心サポート」。どれも優しいラベルで包んでくるが、要はそう、尿漏れパッドだ。
思えば、丑三つ時に漏れなく目覚めるようになったのはいつからだろう。同時に、月のものがこなくなったのは……一年半? いや、二年前? 半世紀生きると年単位でもただの誤差。つまりは生理がそっとフェードアウトして夜間尿や尿漏れがそっとフェードインしてきた。そういうことだ。
でも、引き出しにはまだナプキンたちがたんまり残っている。私にはこれを譲る娘がいない。着なくなった洋服なら、一周まわって流行が戻ることもあり、人さまに「着る?」と言える。なのになぜか、新品でもナプキンは「これ使う?」と言いづらい。彼らには何の罪もないのに、微妙に行き場がない。
そこで私は考えた。「これ、代わりに使えないかしら」と。お試し結果はすぐに出た。吸わない。期待には足らない仕事ぶり。見た目が多少似ていても別物である、という当たり前の事実を身をもって知ることになる。少々不憫だが、役割が違うのだから仕方ない。
観念して、お試しで一個もらった尿漏れパッドを装着してみると、これがまあ、ぐんぐん吸う。この先の不安まで吸い取ってくれる勢いで吸う。安心感たるや、のけぞるほどである。これだ。これは買わねば。
そして本日の来店。ああ、私はついにとうとう、こっちの棚の住人にならないといけないらしい。
袋を手にレジへ向かう途中、ふと思う。若い頃の私は、常に肩ひじはって「締まっていくぞー!」で、どこまでも進むものだと思っていた。
でも実際は、知らぬ間にゆるんでいくのかも。頭もあちらも、少しずつゆっくりと。
そして、そのつど、助けてくれる新たな味方が登場するのかもしれない。そう思ったら、ほんのちょっとだけ、歩幅が広くなった気がした。
(了)