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第4回「おい・おい」選外佳作 「そいつ」は深夜にやってきた 関谷信之

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おい・おい
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<選外佳作>

「そいつ」は深夜にやってきた
関谷信之(東京都・60歳)

 

 最初は、「ピリッ」という痛みだった。
 ベッドから降りたとき、道路の点字ブロックを踏んだとき、足の指先に感じる鋭い痛み。一瞬なので気にしなかった。けれど、「そいつ」は数日後の深夜にやってきた。
「……痛い、痛い、痛い!」
 激痛で目が覚める。ノコギリで切られているのか?と思うほど。見ると、左足の人差し指がまっ赤に腫れている。脂汗がとまらない。うめき声が出てしまう。この痛みは尋常ではない。朝一番で病院に行かないと。まどろんだり、激痛で目を覚ましたりを繰り返し、ようやく朝になった。さて、
「どうやって病院まで行こう?」
 左足は床に触れただけでも痛い。歩けないのだ。救急車? こんなことで呼んでいいものか。タクシー? 近すぎて断られそう。自転車? 左足を地面につけたら激痛だ。……いや、まだ右足がある!
 ケンケン(片足飛び)で移動すればいいではないか。一番近い病院まで三百五十メートル。「いける」そう思ったワタシは浅はかだった。
 順調だったのはエレベーターだけ。片足立ちなんて何年振り?
 マンション前の信号待ちでふらつく。青になり、ピョンピョンピョン。
 信号を渡り、前進すること百メートル。すでにふくらはぎが張っている。デン・デン・デン。
 中間地点の商店街を通過する。アキレス腱が「やばい」かも。止むを得ず、かかとをつけてジャンプする。ドン……ドン……ドン。
 病院についたときには、全身ガクガク。用意してくれた車椅子に座り、ようやく足が重力から解放される。こんなにも自分の体が重いとは。
 検査の結果、「そいつ」の正体は痛風だった。風が吹くだけでも痛いから「痛風」。冗談じゃない。風なんか吹かなくても相当痛い。
 処方された痛み止めを飲み、レンタルした松葉杖を試す。おお、足を着けずに移動できる。家の中の移動は、キャスター付きの椅子でなんとかなりそう。
 こうして、痛む期間をやり過ごし、その後は処方された薬を飲み続け、発作は起きなくなった。後日受けた遺伝子検査によると「通常の二、三倍程度、痛風になりやすい体質」とのこと。不摂生が原因ではなかったことがせめてもの慰みか。
 あれから二十年。けんけんはできなくなり、胃痛で苦しみ、頭痛に悩まされ、五十肩で不自由もしたが、このときに味わった「我が人生最悪の痛み」に比べればどうということはなかった。この先やってくる痛み・苦しみにも耐えることができるであろう(と思いたい)。
(了)