第4回「おい・おい」選外佳作 白髪抜き一本五円で受け付けます せんひろし


白髪抜き一本五円で受け付けます
せんひろし(長崎県・22歳)
大学四年、春。洗面所で髪の毛を乾かしていた私は、頭の左側にきらりと光るアレを見つけた。白髪! 就活のストレスかな、しかも二本も! めったに生えない私にとっては大収穫。ぷちりと抜いて、観察してみる。きらきらだ。ありゃ、黒い髪の毛まで一緒に抜いてしまっているではないか。元・白髪抜き職人なのに。数年で腕が落ちてしまったみたいだ。そう、私は小学生の頃「白髪抜き職人」だった。父専属の。
一本五円の契約を交わし、週に二、三回は抜き仕事をしていた記憶がある。晩ご飯を食べたあと、父が座っている椅子の座面によじ登り、父の頭を見下ろす形で、黒髪の暗闇の中から光り輝く一筋の白髪を探し出す。決して周囲の黒髪を一緒に抜いてはいけない。白髪だけを丁寧に素早く抜き取るのだ。じゃないと、雇い主の満足度が下がってしまうから。
ぷちり、ぷちっ、ぶつっっ、と抜くたびに、私の脳内にはチャリン、チャリン、チャリン、と硬貨の音がする。数をこなしていくうちに、白髪を発見して抜くまでの一連の作業をスピーディーにできるようになった。もっと白髪を生やしてくれないかな〜なんて思っていた。
ところが、私は突然職人の仕事を引退しなければいけなくなる。白髪はどうやら抜かない方が良いらしい、という情報を父がインターネットで見つけてしまったのだ。そういえば、そんなに白髪を抜いていたら髪の毛なくなるよ!と母も言っていたなぁ。このときから父は白髪抜き職人に仕事を頼むことは一切なくなり、私の職人生活は静かに幕を閉じた。あぁ、私の五円……。
電撃引退から十年ほど経った今、ふと父の頭を見てみると、きらきらきらきらきらと輝く白髪がわんさか生えている。物価も上がっていることだし、今なら一本十円かなと考えたりする。でも、もう、明らかに抜いてはいけない量になっている。親の白髪を抜くのにも期限というものがあるのだ。将来私も、小さな職人に自分の白髪を抜いてもらうときが来るだろう。そのときは、抜き仕事の極意というものを教え込まねば。職人デビューの日に、掴みやすいピンセットを贈ろう。
白髪抜き、一本五円で、お願いします。
(了)