第4回「おい・おい」選外佳作 クラリネットと さこたゆう


クラリネットと
さこたゆう(千葉県・八十歳)
ついにとうとう、八十代に突入してしまった。しかし、自分には老いの自覚が全くない。自分で言うのも変ではあるが、私はいつも実年齢より若く見られる。親しい間柄でも、年齢を言うと「え、嘘でしょう」の反応。病院や薬局では、書類に自動的に年齢が表示されるが、何度か「ご家族の方ですか」と確認された。七年前に亡くなった夫が入院中は、「娘さん」にされるのは毎度のことであった。その分、見かけだけでなく、気も若いつもりでいる。
昔は、八十歳といったらもう相当なお年寄りで、長生きですねと言われていたと思う。ところが今は、人生百年時代。八十歳なんてまだこの先長い、これからですと言ってもおかしくないか。それならば、楽しく生きていった方がいい。
六十歳で仕事を辞めたタイミングで、クラリネットを始めた。まさにゼロからのスタートであったが、いまだに続けている。レッスンにも通っているが、それほどうまくなったわけでもない。でも楽しい。下手なりに、人前で演奏したり、他の楽器と合わせたり、朗読とコラボしたりして楽しんでいる。
私の若さの秘訣は、絶対クラリネットにあると思っている。
まず「吹く楽器」であること。否応なしに肺活量も増える。そのせいかあまり風邪もひかない。楽譜を読み、脳が指先に指令を出す、両手の指をきちんと動かすことは、脳トレにもなる。そして姿勢を正して演奏するので、いつも背筋が伸びている。日常の生活でも、姿勢がいいとよく言われる。クラリネットと共に過ごした二二十年は、無駄ではなかったようだ。歯や目や耳など、長年使っていれば経年劣化が出てくるのは当然。そんなこととも上手に付き合って、これからもクラリネットは続けていきたい。
若く見える一番の秘訣は、精神的なものにあると思っている。長い人生の中では、落ち込んで鬱状態になったこともあった。でも、今は前向きに生きている。何か面白いことはないかと、常にアンテナを張り、挑戦を続けている。新しいアイデアを出し、企画し、進めていくのが楽しい。毎日カメラを持って出歩いているし、俳句日記をつけたり、インスタにも投稿している。やることにこと欠かない。時間がもったいないと思うので、テレビは観ない。一人暮らしではあるが、ひょっとしたら今が一番充実しているかもしれない。
「とうとう八十代に突入した」のだけれど、私らしい八十代を送りたいものだと、夢が膨らんでいる。
(了)