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第55回「小説でもどうぞ」佳作 女神町レディレッグコンテスト 菩提蜜多子

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小説
小説でもどうぞ
第55回結果発表
課 題

コンテスト

※応募数358編
 女神町レディレッグコンテスト 
菩提蜜多子

 今日五十歳の誕生日を迎えた。風呂上がりに色気の欠片もない医薬部外品のクリームを毎日塗り込んでいるのに、一向に潤う気配のない私の脚を見つめる。
 二十歳の春、私は若気の至りで「女神町レディレッグコンテスト」に出たことがある。
 老いも若きも、年齢も関係なく女性の脚を競うというもので、それは少し前まで「大根脚コンテスト」という身もふたもないタイトルで開催されていた。時代が時代であれば何らかのハラスメントに抵触するであろうコンセプトにも鷹揚な時勢と地域性だった。
 ルーツが大根脚をよしとする価値観のコンテストであったので、実に様々な婦人が満を持してエントリーをしてきた。美人とかスリムという枕詞の付かないローカルな戦いの場では、押し出しの強い女性がしばしば思いがけぬ栄光を手にしたりする。
 片田舎ののんびりした教育方針のもとに育ち、高校卒業後、何の反骨精神も持たず地元で就職をした私は、仲の良い母親と一緒に笑いながらエントリーをした。優勝者にはハワイペア旅行が贈られると聞き、二人で行こうねと盛り上がったのである。
 当時流行していた銀色のホットパンツを履き、腿をむき出しにした満面笑顔の私がそのときの写真に残っている。その脚は学生の頃、自転車通学で培われた筋肉の上に、若さと抱き合わせになった真っ白い脂肪がまとわりつき、下半身全体が、比喩でなく本当に光っていた。
 しかしながら敵もさるもので、最終選考に残ったのはママさんバレーのエース佐藤さんと、元スピードスケート国体選手の高木先生、元モデルで五人の子持ちの佐伯さん、帰国子女でパーソナルトレーナーの富士見さんというなかなかの面子だった。三人ともアピールポイントが強すぎて、残されたメンバーの中で私だけが「若い」以外の取り柄が何もないように見え、エントリーしたときの勢いが音立てて引くのを感じた。母親は第一次選考ですでに落とされており、ステージの真下ですがるような目で私を見てくる。これには閉口した。
 佐藤さんの、ユニフォームから伸びる脚がすんなりと長く、ふくらはぎが固く盛り上がり足首が締まっていた。学生時代から続けてきたというバレーボールへの思い入れや、試合でのエピソードなどの軽快なトークで、審査員席が和んでいた。
 次に高木先生の、現役時代の緊張感あふれる思い出や、今教えているという生徒との心温まるエピソードで、今度は審査員席が感動し、もらい泣きなぞしている。
 これはまずいなと焦ったと思しき佐伯さんは、一人目から五人目の子どもが産まれるまでの体形変化の推移を臨場感たっぷりに、かつコミカルにアピールし、今度は会場全体を笑いで沸かせた。子どもが産まれるたびに体重を増やしてしまい、現役復帰の夢がついえたというある意味、悲劇でもある話を、実に鮮やかに自虐ネタとして爆笑トークにすり替えてしまった。
 それまで硬い表情だった隣の富士見さんも爆笑してしまい、素直に負けを認めるような発言をしてから、自己アピールを始めた。しかしその軽いアピールのつもりで行った彼女独自のアクロバットが異常なクオリティーの高さで、会場が今までで一番沸くという結果になってしまった。拍手が鳴りやまないその素晴らしいパフォーマンスは、トリを務める私のわずかに残ったモチベーションを一瞬で破壊した。
 高卒の携帯ショップ店員である私には、本当に見事に何もなかった。
 あるのは先月東京で買ってきた太陽光を反射させるホットパンツと、二十歳という若さ、人前で話すことが何よりも苦手という、この場では何の役にも立たぬアドリブの効かない性格だけだった。案の定、私はあまりの羞恥に一言も発することができなくなってしまい、ステージ上で固まってしまったところを「かわいい~ッ」という司会者のフォローで救われた。ほんの少しO脚の私の脚の隙間に、観客の苦笑いがすり抜けて行った。
 その後はあまりよく覚えていないものの、優勝は元モデルの佐伯さんが選ばれ、私たちは参加賞の大根を苦労して持ち帰った記憶はある。母親が、私を励ますつもりでその持ち重りのする大根をとても喜んでいた。たしかにその大根はあまりにも白くて太く、その場にそぐわないような色艶をしていて、落ち込みの維持できない若い私は母親と笑いながら夕焼けの帰り道を歩いた。
 あれから何もない私なりに、一つずつ自己紹介のネタになるような肩書を増やしてきた。看護師の免許を取り、市立病院に就職した。結婚、出産もし、母親という地位も得た。
 娘二人に、コンテストの思い出を話して聞かせたのは、夫との馴れ初めを聞きたがった小学生の頃だった。どう贔屓目ひいきめに見ても十人並みの私が、小規模とはいえ美醜を競うコンテストに出たという思い出は彼女たちを大いに盛り上がらせた。
 そのときに司会をしていた人が、今の夫だという種明かしを聞いてから寝るのを娘たちは気に入って、何度も繰り返し聞きたがった。私のカサカサの脚は役に立っている。
(了)