第55回「小説でもどうぞ」佳作 かぐや姫大作戦 唐戸るな


第55回結果発表
課 題
コンテスト
※応募数358編
唐戸るな
「好きです。付き合ってください!」
俺たちの声が重なる。一斉に差し出された五つの手は、高校内で一番の人気者、美月に向けられている。とうとうこの日がやってきた。
元はといえば、俺は美月に告白するつもりなどなかった。この気持ちを伝えるとしても、伝えるのは今じゃないと思っていた。万が一、自分が美月と付き合えることになったとして、そんなことをしたら他との交友関係が崩れることが容易に想像できた。しかし、だからと言って、もし誰かが美月と付き合い始めたら到底耐えられないとも思っていた。
そして、きっと他のやつらも俺と同じ思いを抱き、誰一人として美月に告白しようとしてこなかった。みんなで平和に美月への片思いを続けてきた。
あの日、勇太が引いた罰ゲームのくじに「好きな人に告白する」と書いていなければ、こんなことにはならなかった。あんなことを書いたやつは、いったい誰だったのだろう。
罰ゲームの内容を見たときの勇太のあの顔は、きっと一生忘れない。驚きと慄きと悲しみを混ぜ合わせたような表情だった。それはそうだ。勇太は美月のことが好きだったのだから。罰ゲームは俺らのクラスでは絶対守らなくちゃいけないことになっている。つまり、ハブられたくなければ、勇太は美月に告白しなければならない。彼の顔はいつの間にか絶望一色になっていた。
とはいえ、その罰ゲームの被害者は勇太だけではなかった。明らかに様子がおかしいやつらが他にも三人。正確には俺も入れて四人。怒り、悲しみ、苦しみ。皆それぞれの表情のまま、しきりにあたりを見回している。お互いに目が合って、確信した。俺のライバルはこいつらだ。
部外者のやつらも、こちらの様子に気が付いたようでにやにやしはじめた。本当に誰だよ、犯人の野郎。
そうは言っても、罰ゲームは絶対守らなければならない。だから、勇太は告白するしかない。……じゃあ、俺たちは?
大して回転がはやくない頭をフルスピードで稼働させ、俺は最善と思われる選択を導き出した。なるほど。もうやるしかないってことか。
大股でつかつかと勇太のもとへ行く。そして、耳元で囁いた。
「来週、二月十四日。バレンタインデーの放課後に、俺たちは同時に美月に告白する。いいな?」
勇太は俺の言葉を聞いて少し驚いた。しかしすぐに覚悟が決まったのか、諦めの顔でうなずいた。
その様子を見ていた他の三人も、何事かとおどおどしながらこちらの方に歩み寄ってきた。周りにいる部外者のひゅーひゅーという声がうるさかったことを覚えている。
五人集まったところでもう一度、バレンタインデーにみんなで美月に告白することにしようと伝えた。するとやつらも同じことを考えていたようで、三人ともすぐにうなずいた。
さて、この作戦は「かぐや姫大作戦」と名付けられ、一週間、五人がそれぞれの方法で美月にアピールをした。一人は毎朝登校時に美月に話しかけに行き、一人はなるべくいつも通りに接した。勇太は得意のサックスを、美月に聞こえるところから放課後毎日吹いた。俺? 俺は昼休みのたびに美月たちと一緒にバスケをした。この一週間だけはいつもとは違い、委員会もすっぽかして毎日必ずバスケに参加した。俺っていつもは案外真面目なんだよね。
運命のバレンタインデーまであと一日になった昨晩、俺ら五人はグループ通話で翌日の流れを確認した。その後も何となくだらだら話していたら、勇太がかわったことを言いだした。
「告白したところでさ、美月が俺らに珍しいものを貢ぐように言ってきたらどうするよ。本物のかぐや姫みたいにさ」
え、かぐや姫ってそういう話だったっけ? 不思議に思ったが、よく覚えていないことが恥ずかしいので黙っておいた。
「じゃあ俺、それに備えてバイト探そう」
「まじかよ」
みんなで携帯越しに笑いあった。
「それじゃあ、明日。恨みっこなしな」
夜が明け、とうとうバレンタインデー当日になった。舞台は校庭脇のバスケットボールコート。様子をかぎつけたやつらがみんなして野次馬に駆けつけた。バスケコートの周囲には人だかり。校舎の窓からもたくさんの顔、顔、顔。
俺たちは事前に打ち合わせた段取りの通り、美月の前に横一列に並んだ。高鳴る鼓動。浅くなる呼吸。
それも当然。そもそも告白なんて人生で初めてだし、もしかすると隣の誰かが美月の恋人になってしまうかもしれないって状況だろ。いや、そんなことになったら一体どんな顔をすればいいんだよ、俺。
昼休み終了五分前のチャイムが鳴った。それを合図に、予定通り、俺たちは声をそろえて言った。
「好きです。付き合ってください!」
男五人の声が響く。
美月はなんとなく予想がついていたのか、そこまで驚くこともなく、さらりと言った。
「ごめん。俺、好きな女子いるから」
……終わった。全員落選。俺ら五人だけでなく、観客全員落選。なぜかって? 俺らの高校は男子校だからだ。
全校生徒が安堵と悲しみのため息をついた。
(了)