第55回「小説でもどうぞ」佳作 十年後 阪上伯


第55回結果発表
課 題
コンテスト
※応募数358編
阪上伯
長く続いた十二支のメンバーだったが、もうこの時代に龍というのはおかしいだろうという話になった。
実際、龍は会議に一度も出席していなかった。それもそのはず、実在しないのだ。
というわけで、ひとつ空いた十二支の席にどんな動物を入れるのか、議論になった。
真っ先に猫の名前が挙がったが、過去の遅刻問題に加え、鼠の一団が集団票を投じた結果、却下となった。
次に熊は、強さと威厳が評価されたものの、冬眠していると新年の行事に出られないのではと候補から外された。
狐は、機転が利き、外交向きと期待されたが、裏で糸を引いている印象が強すぎるとされた。
鹿は、観光地での実績が豊富だとされたが、せんべいが尽きたと察するや急に冷たくなると指摘が出た。
鷹は、先見性が期待されたが、上から目線との批判を受けた。
フクロウは知性が評価されたものの、働き方改革の中で、夜勤の固定化を問題視する声が上がった。
カラスは、都市適応能力が高く現代的と評価されたが、黒一色は祝い事に向かないと退けられた。
イタチは、俊敏さと機転が魅力とされたが、いたちごっこ、という言葉の語感が縁起物に不向きと判断された。
キリンは、高い視点が時代を見渡す象徴になると期待されたが、年賀状のレイアウトが縦に伸びすぎるという懸念が生じた。
カピバラは、温和で協調的という点が支持を集めたが、温泉のイメージを
シロクマは、白の清廉さがふさわしいとされたが、地球温暖化の象徴としてのイメージが近年強く、重すぎるとされた。
ペンギンは、団結力と規律正しさが推されたが、南半球との時差が指摘された。
コアラは、愛嬌と穏やかさが支持を集めたが、年の大半を木に抱きついて過ごす生活が現状維持の象徴と誤解され見送られた。
パンダは、国際情勢により出席が確約できないとの理由で先方から断ってきた。
アルマジロは、防御力の高さが安心感を与えると評価されたが、丸まった状態が干支の判子にしたときに饅頭にしか見えないとして却下された。
フェレットは、愛玩性と身軽さが評価されたが、名前の響きが年号として落ち着かないと判断された。
ヤギは、十二星座と混同する人が出てくるとして選外となった。
ハシビロコウは、動じない姿勢が頼もしいとされたが、沈黙が長すぎてオンライン会議では接続不良と誤解されかねないと指摘が入った。
龍は、誰も入れた覚えがないのに、いつの間にかリストに入っていて、会議は一時騒然とした。
ミーアキャットは、見張り能力の高さが危機管理に有効と評価されたが、常に立っているのは腰に悪いと心配された。
ハムスターは、親しみやすいと支持されたが、回し車のイメージが虚無的な労働を想起させるとして見送られた。
オオカミは、野性味と統率力が再評価されたが、童話的風評が根強く残っているとのコメントが相次いだ。
ナマズは、地震予知の象徴として話題に上ったが、不安を先取りしすぎるとして退けられた。
フラミンゴは、華やかさが新機軸とされたが、片足立ちでは安定政権を担えないとの理由で見送られた。
アリクイは、専門性の高さが着目されたが、一方で食わず嫌いすぎるとの意見が出た。
カワウソは、可愛らしさと社交性が支持を集めたが、手をつなぐ姿が派閥政治を想起させるとして敬遠された。
ハトは、平和の象徴として推されたが、既に各種式典と手品で酷使されていると自ら辞退の申し出があった。
リスは、貯蓄の象徴として堅実とされたが、時代は貯蓄より投資ではないかと反対の声が上がった。
ゴリラは、包容力が期待されたが、胸を叩くたびにマイクがハウリングすると苦情が出た。
ヒツジは、温厚な点が評価されたが、もういるのでは、と全員が混乱した。
カモノハシは、唯一無二の個性が注目されたが、哺乳類なのに卵を産むという説明に毎回五分かかるのが難点だった。
ビーバーは、建設的と評判が高かったが、勝手にダムを作られても困ると却下された。
アザラシは、愛嬌が支持されたが、拍手が議決と誤認される恐れがあった。
ウーパールーパーは、再生能力が推されたが、正式名称を誰も言えなかった。
ナマケモノは脱力が時代精神を体現すると評価されたが、年明けから全力を出さないイメージはいかがなものかと苦言が呈された。
最後に狸が挙がった。
おお、いいんじゃないか、身近だし親しみやすくて。
日本の狸は日本の固有種で海外からも人気があるらしい。
ね、うし、とら、う、たぬ、み……。語呂もいいじゃないか。
みな長時間の会議に疲れ切っていたので、局部を露出した置物が全国に出回っている点には目をつぶった。
たぬきがいいなあ。たぬきにしよう。
異論は出なかった。
というわけで、十年後はたぬ年です。
みなさまよろしくお願いします。
会議が終わってしばらくの間、床には一枚の葉っぱが落ちていたのだが、誰も気づかないうちにどこかに消えてしまった。
(了)