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第55回「小説でもどうぞ」佳作 優勝者 十六沢藤

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小説
小説でもどうぞ
第55回結果発表
課 題

コンテスト

※応募数358編
優勝者 
十六沢いざさわとう

『今回のコンテストの通過者は十四名です』
 夜中にふと目が覚めた。
 今の声は何だったのだろう。
 ベッドの上で目を薄く開け、ぼんやりとした頭で考える。最初はテレビを消し忘れたのかと思った。だが、よく考えてみれば寝室にテレビは置いていない。念のため確認したが、他のデジタル機器で動画が再生されているわけでもなかった。
 そもそも、今のは本当に声だったのか。
 寝惚けて夢の中の内容を現実だと思い込んでしまった可能性の方が高い。起き抜けで、いろいろと難しく考えすぎたのだろう。
 布団の中で体勢を変え、再び目を閉じる。
 そういえば、一体何のコンテストだったのだろうか。
 翌日はゴミの日で、まとめたゴミ袋を集積所まで持っていく必要があった。既に出来上がっているゴミ袋の山に自分のものを追加しながらふと横を見ると、掲示板に広告の紙が貼り付けられている。
『空室一部屋有り』
 今住んでいるアパートは、この間まで全室埋まっていたはずだ。久々に空きが出たのだなと頭の隅で考えながら部屋に戻る。
 その日一日も、仕事で忙しかった。
 帰宅してすぐにシャワーを浴び、何か飲もうと冷蔵庫を開けたとき、唐突に声が聞こえた。
『夕食にはマヨネーズを』
 思わず動きを止め、辺りを見回す。
 夜中に聞いた、あの声だった。
 あれは夢ではなかったのか。
 今この瞬間もテレビは点いていないし、他に音源と思わしきものも何もない。窓も開けておらず、そもそも今の聞こえ方は明らかに室内からだった。不審者がどこかにいるのかと、人が入り込めそうな場所を片っ端から開けてみたが、虫の一匹すら出てこない。
 念のため、ベランダと玄関ドアの外も確認したが、やはり何も見つからなかった。
 不気味に思いながら部屋に戻ると、開けっ放しにしたままになっていた冷蔵庫の中身に目が留まる。少し迷ったが、恐る恐るマヨネーズを手に取った。気になっていたのは前の夜に聞いた声の内容だ。あの声は、『コンテストの通過者』と言っていた。同じ声が指定してきたものを無視するとまずい気がしたのだ。
 結局、その日の夕食にはきっちりマヨネーズを使い、普段と同じ時間に床に就いた。内心、拭い切れない不安はあったが、一応条件はクリアしているはずだ。
 ベッドの中で目を閉じ、どうなるのかと身構えていると、予想通り声が聞こえてきた。
『今回のコンテストの通過者は十名です』
 前日よりも四人減っている。
 コンテストとやらに通過できないとどうなるのだろうと考えていると、にわかに辺りが騒がしくなった。次いで、鼻を突く異臭。外から大声が聞こえてきて、思わず飛び起きる。
 どこかで火事が発生したようだった。
 騒ぎのあまりの近さに慌ててベランダに出ると、同じアパートの下階の辺りから煙が上がっている。まさかこんな近場だとは思っていなかったので、急いで荷物を持って外へと飛び出した。
 すぐにサイレンの音が近づいてきて、鎮火作業が始まる。幸い火はすぐに消し止められたが、周りの部屋も含め四部屋が住める状態ではなくなったらしい。
 その内容を聞いてぞっとした。
 理由はどうであれ、住人が四人減る。
 あの声は一体何なのか。
 今回の四人は、夕食にマヨネーズを使わなかったのか。それとも、声そのものに気づいていないのか。あり得ないとは考えつつも、なぜか偶然だとは思えなかった。
 その日以降、部屋で聞こえる声に敏感になった。声がするのはいつも同じ時間で、条件も様々だった。簡単なものから奇妙なものまで多種多様で、簡単なものは日常生活を送っていれば自然とクリアできる。だが、そうでないときは多くの場合で住人が減った。
 一度、ゴミの集積所でそれとなく他の住人に話を振ってみたが、例の声に気づいてはいないようにみえた。
 日が経つにつれ、声の出す条件が次第に難しいものになってきた。恐らくこのままではまずいだろうと感じたので、有給を取って引っ越し先を探し、大きめの荷物は一旦トランクルームに避難させる。丁度出張が入り、嫌な予感がするので残りの荷物を全て旅行カバンに詰め込んで家を出た。
 案の定、出張先で大家から連絡が入り、自宅の天井が落ちたことを知った。
 嫌な汗が背中を伝う。
 大家には引っ越す旨を伝え、諸々の手続きを済ませてあのアパートには帰らなかった。
 新しい家に荷物を運ぶ途中、ふと声が耳に飛び込んできた。
『さあ、今回のコンテストの優勝者は──』
 はっとしてそちらを向くと、古い商店の店先のテレビにアナウンサーが映っている。番組は次の場面に進み、花束を受け取る男性が笑顔でこちらを見ていた。
 大丈夫。ただのテレビ番組だ。
 今回の家は例のアパートにあった街とは別の場所にした。風の噂で、あのアパートが建て壊しになると聞いたが、今となっては関係のないことだ。
 自分が逃げ切ったのか、『優勝』したのか、そんなことももう考えたくなかった。
(了)