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第55回「小説でもどうぞ」佳作 タネも仕掛けもなかったばかりに 昂機

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小説
小説でもどうぞ
第55回結果発表
課 題

コンテスト

※応募数358編
タネも仕掛けもなかったばかりに 
昂機

 燃えたハンカチがバラになる。シルクハットから鳩が飛ぶ。穴の開いたカードが元通りになる。
 なんだ、こんなものか。俺はほくそ笑んだ。賞金の一千万円は俺のものだ。
「それでは、お次はエントリーナンバー4! どうぞ、舞台にお上がりください!」
 司会に促され、俺は壇上に上がった。文化ホールいっぱいのギャラリーと、気難しそうな審査員たちが拍手する。
「ご覧ください、タネも仕掛けもございません」
 両手を広げ、何も持っていないことを示す。ぱちんと指を鳴らすと、次の瞬間、舞台を埋めつくすほどたくさんのテディベアが降り注いだ。観客の驚嘆の声が沸き起こる。
 ぱちん! もう一度指を鳴らした。テディベアたちはパズルが崩れるように消える。観客のざわめきが大きくなった。
「素晴らしい! まるで魔法のような手捌きです!」
 司会が叫ぶ。一瞬どきりとしたが、俺は歓声に包まれながら舞台を後にした。盛大な拍手は鳴り止まない。このマジックコンテストの優勝はいただきだ。
「モニターで観てました。さっきの、凄かったです」
 控え室に戻ると、他の参加者たちから畏怖の視線を向けられる。その中で長身の若い男が手を差し出してきた。胸につけたエントリーナンバーは7番。「どうも」俺は軽く答えて握手してやりながら、にんまり笑う。マジックじゃないんだよなあ。
 なにせ俺が披露したのは魔法だ。魔法の存在をおとぎ話だと信じる人間界のやつらが気付くことは、一生ないだろう。しかもこんな片田舎ならなおさら。ただ指を鳴らして一千万とはあまりに破格だ。
「あなたのような天才がいるなんて。感動しました」
 7番は整った顔立ちに微笑みを浮かべる。それから、俺にしか聞こえないような声で囁いた。
「あんなのは初歩の初歩、子どもでもできる。さては君、魔法が下手だな?」
 一瞬、何を言われたのか分からなかった。
「それでは出番が来るので失礼。賞金は僕がいただくよ」
 7番は颯爽と立ち去っていく。残された俺は歯を食いしばった。図星を突かれたからだ。俺は凡才中の凡才、魔法世界では居場所がないから人間界にやってきた。このコンテストなら俺の魔法でも勝てるだろうと踏んできたのに、こんなところに同郷がいるなんて。
「お次はエントリーナンバー7! 張り切ってどうぞ!」
 遠く司会が声を張り上げていた。他の参加者とともに、モニターで7番の動きを見る。いったいどんな魔法を使うつもりなのだろう。
「うまい……」
 隣のやつが呟いた。確かにそのとおりだ。俺はマジックに詳しくないが、7番のトランプ捌きは素人目からでも洗練されていた。滑らかに絵柄が入れ替わり、カードが現れたと思ったら消える。審査員が感嘆の息を漏らしていた。
 だが所詮は手品だ。俺の魔法と比べたら劣っている。優勝はこの俺だ。
 そう思った束の間、画面の中の審査員の目がとろけ始めた。「すごいなあ、天才だなあ」と口々に褒め称えている。
 ちくしょう! あいつ、魔法で人の心を変えたに違いない。あれは一部の者しか使えない上級魔法だ。それを使えるやつだったなんて! 
 7番が戻ってきた。その目は明らかに俺を見下している。
「本当は手品の実力で勝つつもりだった。君のせいであの魔法を使わざるを得なかったんだよ」
 俺は拳を握りしめる。何が俺のせいだ。結局はお前も賞金狙いのクズだろうが。
 すべての参加者の出番が終わり、結果発表のときが来た。司会が優勝者の書かれた紙を手に、マイクの前へ進み出る。壇上に並んだ参加者たちは全員が緊張した面持ちだった。俺とあの7番以外は。俺は敗北を確信し、7番は勝ち誇ったような顔だった。
「それでは発表します」
 司会が咳払いする。
「優勝者は……エントリーナンバー7番! そして……4番!」
 歓声と拍手が上がった。7番は信じられないものを見るように眉根を寄せていた。俺も耳を疑った。俺の魔法が、やつの魔法と互角だったのだ。完全勝利ではないけども、一矢報いた。それだけで胸のすく思いだった。
「優勝のお二人、賞金をお渡ししますので別室へどうぞ! 今大会の会長がお待ちです!」
 司会に促され、俺たちは拍手の中で舞台を後にする。7番の不機嫌そうな顔を見るとにやにやが止まらなかった。
「お二人とも、おめでとうございます」
 会長の部屋は小さな事務室だった。目の前のじいさんは柔和な顔で笑っている。
「賞金はどこにありますか? 半分ずつということになるのでしょうか」
 7番は苛つきを隠そうともしない声だった。部屋に金はなかったが、俺にとってはほとんどどうでもよかった。俺は賞金よりもっと大切な勝利を味わっていた。
「お金はありません」
 え? 俺と7番は声を合わせる。
「おかしいと思いませんでしたか? 田舎のコンテストの賞金が一千万なんて」
 老人が指を鳴らす。俺たちの横に、屈強な男たちが一瞬で出現した。
「これは罠だよ。お前らのような魔法を悪用する者を捕らえるためのな」
 男たちに腕を掴まれた。7番と目が合う。瞳の中の俺は、7番と同じように怯えていた。
(了)