第55回「小説でもどうぞ」選外佳作 2050年の料理コンテスト くれおー樹


第55回結果発表
課 題
コンテスト
※応募数358編
選外佳作
2050年の料理コンテスト くれおー樹
2050年の料理コンテスト くれおー樹
我々は、中国では、2010年代後半にはレストランで調理したり配膳したり、それぞれ得意とする仕事をし始めていました。
日本でも、2020年代には大手の外食チェーン店で、炒飯などの調理を任されています。ロボット開発会社を創業した方が、ご自分のお祖母さんが調理できなくて困っていたのを見て、高齢者でも“温かく美味しい食事”を楽しめる調理ロボットの必要性を感じた、というのが、我々を誕生させた理由だったのです。
その開発では、熟練職人さんの鍋さばきを、その創業者さんと我々が一緒になって、半年近く研究しました。職人さんが調理している動画をみたり、どんな加熱温度、加熱時間で、どんな鍋回しか、また料理の味はもちろん出来上がりの見た目も同じになるようにマニュアルを作りました。切った食材とか調味料は、予め決まったケースに入れてもらいますけど、そこから先は、プログラムされた通りに作っていきます。ですから、できた料理はいつも味も香りも見た目も熟練職人さんと同じようになりました。
また私とは別のところで生まれた洗いろぼ君は洗い場専門で、下げられた食器から残りものをざっと取り除いて生ゴミ処理機に入れ、食器は食洗機に種類毎に並べて入れることができました。最初のうちは、お皿にのっていた箸置きなども生ゴミとして捨ててしまうことがあったみたいですけど、そのうちそうした間違いはしなくなったそうです。
食材を切ったり盛り付けたりとかが得意な配膳ろぼ君もいます。キャベツの千切りは、キャベツの大きさとか形に関わらず一定の切り幅でしたし、じゃがいもの芽の部分とか傷んだ部分を取り除いたりということもしてました。また、トレイに載ったたくさんの唐揚げを画像処理して、配膳する一皿当たりの唐揚げが同じ数、同じくらいのg数になるよう、いろんな大きさの唐揚げをうまく盛り合わせたりもできるんです。
私のような料理ろぼは、2030年代後半には、味覚を持つようになっていました。
“美味しい”という感覚はなかったんですけど、甘み、塩味、酸味、苦味、うま味の五要素がどうだったら人間さんが美味しいって感じるかの相関データをインポートしてました。また、人間さんの嗜好に合わせて、関東風関西風、若者向け高齢者向け、など微妙に味付けを変えたりもできたんです。
2040年代になると、レストランで修業していた我々は人間シェフのレベルになってきて、ろぼシェフって呼ばれ始めたんです。その頃にはミシュランも、各国の一流ろぼシェフを紹介するようになっていました。
そんな状況を踏まえて、2050年に、初めてろぼシェフを対象とした料理コンテストが開催されることになりました。その案は、イタリアンレストランの人間のシェフさんからの提案だったとのことで、一回目はイタリア料理でのコンテストになったそうです。
コンテストの要領は、あらかじめ決められた食材を使って、お題も念頭にイタリア料理の主菜を作るというもので、その回のお題は「コク」でした。出来上がった料理は、ミシュランで3つ星以上のイタリアンレストランのシェフの3人が、味、香り、見た目、そしてお題に応じたものかどうかを評価します。各項目5点満点で採点し、その各項目審査平均点の合計点で上位3名が金銀銅いずれかのメダルをもらうのです。
そのコンテストには、全世界から200を超えるろぼシェフからの応募があったようでしたが、その中に、私、“くあると”も入ることができました。
私は、以前イタリアンの熟練職人さんに教わったアクアパッツアを作りました。結構うまく出来たので、メダル取れるかもと思ってたんですけど、結果は4位でした。味、見た目、香りは3点以上でしたけど、お題の「コク」については2.5点で、合計14.6点になって、銅メダルの“てるつぉ”君とは、わずかに0.2点差。受賞にいま一歩だったんです。審査委員長からは、「“くあると”君のアクアパッツァはおいしかったけど、ちょっと味が淡白だったかな」ってイタリア語で言われました。
そのコンテストが終わると、すぐに私は勤務先の介護専門の施設に帰ってきました。
もう入居者さんの晩御飯を用意しないといけない時間でしたから、がっかりしている暇はありません。いつものように、各部屋を回って皆さんの晩ご飯の希望を聞いて回りました。栄養の偏りが無いよう、野菜は必ずメニューに入れるとか、ちょっとタンパク質を多めにしましょうといったアドヴァイスもしながら。ある人にはお豆腐の入ったお澄まし、ある人には南瓜とじゃがいも入りの味噌汁とか、主菜は、さわらの塩焼きだったり、鶏つくねの照り焼きなどを丁寧に作ってお出ししました。
一段落すると、看護婦長さんが話しに来られました。
「ここの皆さん“くあると”君の料理は、いつも温かくて美味しいって、言ってくださってるわよ。それが一番。ここでは和食が多いし、あなたも皆さんの好みに合わせてたから、イタリア料理からすると、ちょっと味が淡白だったのかも。来年もコンテストあるっていうから、また挑戦したらいいわよ」って励ましてくれました。
(了)