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第55回「小説でもどうぞ」選外佳作 死ぬのは一回だけ あきのさくら

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小説
小説でもどうぞ
第55回結果発表
課 題

コンテスト

※応募数358編
選外佳作 

死ぬのは一回だけ 
あきのさくら

「おめでとうございます」
 若い青年が、ニコニコしながらアパートの玄関に立っていた。いきなりの訪問に驚き、新手の詐欺かと思う。恐る恐る尋ねる。
「どういうことですか?」
「貴方はコンテストで優勝しました」
 覚えがない。やはり新手の詐欺か。「お引き取りお願いします」と言おうとしたところで思い出した。そうだ、一か月前ほど、酔った勢いで、変なものに応募したんだ。それが、何かのコンテストだったに違いない。なんだ? 何のコンテストだ? 覚えているのは百万円がもらえるということだけだった。
 え、百万!?
「これって、百万もらえるやつでしたっけ!?」
「ええ。おわたしいたします」
 青年は、俺の驚きをよそにバッグを差し出す。中には一万円札を束ねた札束がひとつ、どんと入っていた。一瞬、これは危ない何かではないかと疑う。しかし、受け取る。金銭面にはずっと前から苦労していた。バッグの中の金が本当だとわかると、次第に気分は高まっていった。
「しかし、何のコンテストでしたっけ」
 間違いなどだったら嫌だと思いながら尋ねる。
「死に方が一番みじめな人コンテストです」
「えっ」
「それでは」
 口をパクパクさせ、状況が呑み込めない自分をよそに、青年は軽く微笑んで、消えてしまった。そして、その事実にまた呆然とする。いきなりの百万、死に方についてのコンテスト、そして消えた青年。すべてが幻で、今見た一瞬の夢なような気がした。しかし、それを否定する、百万円が入ったバッグが俺の手にあった。

 そして月日がたった。貧乏でいつもギリギリの生活を送っていた学生時代を思い出す。それと同時に謎のコンテストのこともずっと覚えていた。あのバッグは、捨てようと思ったが、怖くて、結局捨てられなかった。
 そこそこの会社で働き、結婚もし、子どももできた。
 でも、ふとした瞬間、あのときのことを思い出す。
 なんど、あれがいたずらだと考えたことだろう。そして、実際そうなのかもしれない。未来を見ることなんて不可能なわけだから、人の死に方がわかるはずもない。しかし、残された百万は消えた青年の存在を裏付けし、その「消えた」というのが不可能なはずの「予知」の存在の可能性を作っていた。みじめな死とは何なのだろう。人はいつか死ぬ。そう理解したつもりだ。しかし、実際、死という言葉を突き付けられると自分の「死」についての恐怖や受け入れられない部分を目の当たりにする。そして「みじめ」。どういうことだろう。
 みじめな死という言葉が俺につきまとう。どんなにこれから幸せになったとしても、死ぬときはみじめらしい。それもひどく。
 どうせ、死ぬときはみんな死ぬのだから。そう思うことにする。どうせ、死ぬときは一緒だし。でも、幸せだと思った瞬間、死がよぎる。それは虚しい。
 愛している家族も、この立場も、すべて裏切るのかもしれない。そう考えるのはつらい。けれど、たまに考えてしまう。そうして日々がすぎていく。
 
 ある日、町内で自殺をした人がいるという。死という言葉に敏感になっていた俺は、怖くなった。自殺とはひどい死に方だ。きっと、みじめで孤独だったに違いない。俺の死に方は自殺なのだろうか。
 この悩みを誰かに打ち明けようとしたことはあまりない。打ち明けたとて、信じてくれないだろう。無性にさみしくなった。あるとき、周りに内緒で占い師のもとを訪ねたことがあった。しかし、不安は消えなかった。あのときの出来事ほど信じられる占いはなかった。どうも、うさん臭く思ってしまうのだ。

 子どもは旅立ち、定年退職もした。まだ、死んでいなかった。もう、あれはやはり夢だったのかもしれないと思うようになった。寿命が近づいてきたことを感じる。しばらくして妻が死んだ。突然だった。これでもう失うものはなくなった。
 そう思いながらも、恐怖は拭い去れなかった。死は怖かった。
 ある日、俺は倒れた。突然の出来事で何が起こったのかわからなかった。こんなにも唐突に死ぬのだなあと思う。スーパーで買った総菜を食べているときだった。
 なにが「みじめ」だよ。普通に死ぬんじゃねーか。
 頭がぼんやりとしてくる。こんなことなら、あのときもっと幸せを感じていれば良かった。怯えなければよかった。みじめだな、と思う。今更、後悔するなんて。人生に出場できるのは一度だけで次はないというのに。
(了)