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第55回「小説でもどうぞ」選外佳作 三十年後の勝者 寿太郎

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小説
小説でもどうぞ
第55回結果発表
課 題

コンテスト

※応募数358編
選外佳作 

三十年後の勝者 
寿太郎じゅたろう

「コンテスト参加者募集! 備え付けの葉書でエントリーした後、三十年後の今日、正午までに、この広告の切り抜きを持って下記住所にお越しください。コンテスト優勝者には賞金一億円」
 実家の居間で何気なく開いた新聞に、こんな広告を見つけた。突っ込みどころだらけの広告だ。
「ははっ、こんなの誰が行くんだよ……」
 そう口にしてみたものの、何か引っかかるものがあった。大手新聞でこれだけのスペースを使って広告を出すなんて、いたずらにしては手が込んでいる。疑う気持ちが無いわけではなかったが、特に深く考えることもなく、はがきに必要事項を記入し、ポストに投函した。広告の切り抜きは、自宅の食器棚の引き出しに無造作に放り込んだ。応募してしばらくはコンテスト事務局から何らかの案内なり反応があるだろうと気にかけていたし、何のコンテストだろうと想像して楽しんでもいた。しかし音沙汰が無いまま、結局ただのいたずらだったのかもしれないと、いつしかこのことは忘れてしまっていた。
 それから三十年、一人だけになった部屋で、中身がほとんどなくなった食器棚を片付けていて例の広告を見つけたのだ。こんなところに、まだ過去が残っていたか。
「三十年後の今日」というのはいつだったのだろう。切り抜きの隅に自分の字で書き込みがあった。「平成八年二月二十七日○○新聞」と書いてある。カレンダーを見ると、もう翌週に迫っていた。そもそも、何のコンテストなのだろう。それすら知らされていないことに、今更ながら胸がざわつき始めた。このコンテストに自分はエントリーした。その権利はまだ、生きているのだろうか。二月二十七日、この日に何か意味があるのだろうか。スマホで調べても、コンテストと関係する情報は得られなかった。時間だけはあるので当日に行くべき住所も訪ねてみたが、電車とタクシーを乗り継いで着いた場所は、山の中の寂れた集落のはずれにある、元は学校だったと思われる建物と、広いグラウンド跡地だけだった。
「当日は、ここがイベント会場にでもなるのかな」
 一人で呟いて、しばらく付近をあても無く歩いてみたが、結局コンテストのヒントとなるようなものは何一つ見つけることが出来ず、待たせておいたタクシーに乗り、帰途についた。
 それから数日間は部屋にこもり、とうとう何も分からないままコンテスト当日となった。正午に間に合うように家を出る。三十年前、はがきをポストに投函したのは、ちょっとした遊び心だったはず。充実した日々が続いていれば、きっと忘れたままだった。ぼんやり考えながらタクシーで移動中、一台の車も見かけない。やはり、コンテストなんか無いのかもしれない、今更何かを期待していたわけではないが、この先に何があるのか確かめずにはいられない衝動を抱えながら目的地に着いた。
 時刻は正午、元は学校だったと思われる建物と、広いグラウンド跡地。ほかに何もない。
「え?」
 次の瞬間、建物から人が出てくるのが見えた。一目で高級とわかるスーツを着た七十歳ほどの老人と、部下と思われる背の高い、大きなジュラルミンケースを持った若い男性。彼は驚きを隠そうともしていない。
「ほんとに来ましたね……」
 老人が満面の笑みでそれに応える。
「ああ、来たな」
 これがコンテスト? いや、これから何かが始まるのか?戸惑っていると、老人が腕時計をちらりと確認した後、話し始めた。
「正午になった。おめでとう、あなたがコンテストの優勝者だ。ここにある一億円を差し上げよう」
「すみません。何が何だか……」
「三十年、忘れずにこの場所に来た者が優勝だ。そして、あなたはここに来た。わたしは大変満足している」
「ほかには、誰も来なかったんですか」
「そう、来なかった……。君が来てくれて、正直ほっとしているよ。危うく企画倒れになるところだった」
「忘れずに、とおっしゃいますが、つい先日まで忘れていたんですよ、私も」
「しかし、君は来た」
 この三十年の日々が頭の中を通り過ぎた。失った家族、友人、居場所……。目の前に差し出された一億円では、到底足りない。しかし、ほとんど無意識にジュラルミンケースに手を伸ばしていた。
「ええ、もう、ここに来るしか、なかったので」
(了)